コラム~火災保険裁判を経験して

2017年04月11日

火災保険1 家財損害と民事訴訟法248条による「相当な損害」の認定

(1)問題の所在

 ア 家財損害は意外に高額である

衣類や持ち物全部を全部につき同種・同等品購入しようとすると単身でも意外に高額になる。

例えば、保険会社各社がホームページやパンフレットで、必要な家財保険の保険金額の目安を示すために世帯主の年齢や世帯構成による家財額の目安を説明したものみると、中高年の大人2名と子供1~2名の家庭の家財総額が1500~1600万円程度であり、個人一人あたりの衣類を含めた家財についても中高年の女性であれば500万円程度(男性の方は300万円弱)の説明をしている保険会社もある。

損害保険料率算定機構が独自のアンケート結果と総務省等の各種調査に基づいて行った研究である「家財の地震被害予測手法に関する研究(その1)家財の所有・設置状況に関する調査」(平成19年11月)の「第Ⅳ章 家財の所有状況に関する調査・検討」166頁~167頁によれば、家族構成が3人で、世帯主の年齢が50代の場合には家財所有額は1355万円、60代の場合1478万円である。

このような家財が焼損等で失われたり使えなくなったりした場合に買い換えようとすると意外にお金がかかることになる。

場合によっては火災保険契約に付加された臨時費用の支払いでは不足する可能性がある。

イ 家財損害は立証が困難になりがちである

しかし、安易に高額の家財保険をかければ安心かというとそうではない。保険事故が起きて実際に請求しようとすると立証に困難が生じる可能性が高い。

実際に保険事故が起きたときには、大きな物や高額の物以外に細かく何がどれだけあったかわからないことが多い。当事者に分かっていても、第三者に物の特定や金額が証明できない。

通常は事故前に家財すべての写真をとっていることは考えられず、領収書も、保管していなかったり幸いに保管していたとしても火事で燃えて滅失していたりする可能性が高いからである。

(2)家財損害の立証方法

それでは、保険会社との訴訟になった場合、どうやって家財の損害を認定するだろうか?

ア 本来的な立証方法による場合

具体的な家財損害を1つ1つ立証して積み上げる方法が本来的な立証方法であり、事故直前の写真や直近の領収書があれば立証は容易になる。

写真や領収書がなくても、家電など大きな物は、例えば冷蔵庫であれば少なくとも家族の規模から標準的な大きさや個数(最低一台など)が推測できる。

例えば、価格ドットコムの平均値(できれば安い方)を主張すれば、少なくともその程度の損害は生じているはずと立証する方法であれば、相手方保険会社もより主張を受入れやすくなるはずである。

もっとも、衣類や着物、靴、着物、ささいな宝飾品等は、各々の時価はさほどではなくても全部を新たに買いそろえると意外に高額になるのに、個別に立証することは困難である。また、例えば家族の人数分以上の高級羽布団を購入してから長期間押し入れに放置していて損傷した場合は、事故前にどの程度の品物が何枚あったか立証するのはより一層困難である。

イ 民事訴訟法248条による認定を求める方法

  このように具体的な損害額の立証が難しい場合でも損害の発生が認められる場合には相当な損害額を裁判所が認定することができるが、これについて規定しているのが民事訴訟法248条である。

(3)民事訴訟法248条

ア 条文には、「損害が生じたことが認められる場合において、損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは、裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる。」とある。

イ 民事訴訟法248条が適用された判例の例

 ① 被害者の砕石権侵害の事例(最高裁平成20年6月10日 判例タイムズ1316号142頁)

② 特許権を目的とする質権を取得できなかった事例(最高裁平成18年1月24日 判例タイムズ1205号153頁)

③ 火災保険請求の事例~什器・備品の損害(福岡高等裁判所平成15年12月25日)

④ 残置動産類を違法に廃棄されたことによる損害の事例(東京地方裁判所平成14年4月22日 判例時報1801号97頁)

⑤ 火災による動産滅失の事例(東京地方裁判所平成11年8月31日 判例タイムズ1013号36頁)

⑥ マンションを建設した者が租税特別措置法による減税措置を受けられずに被った損害(東京高等裁判所平成10年4月22日 判例タイムズ1003号220頁)

⑦ 高層リゾートマンションの建築ができなくなった事例(東京高等裁判所平成13年7月16日 判例タイムズ1087号139頁)

ウ 論文「民事手続判例研究」(福岡民事訴訟判例研究会)(「法政研究」73巻4号173~183頁2007年2月(九州大学))

  この論文は、上記2イ②で述べた、特許権を目的とする質権を取得できなかった事例(最高裁平成18年1月24日)の判例評釈であり、民事訴訟法248条による損害額の認定についての学説と判例の状況を述べた上で本判決の評価と射程を論じている。また、注釈には、民事訴訟法248条関係の複数の論文が掲載されている。

(ア) 火災の場合の家財の算定方法について、828頁には「性質上証明が困難な場合が考えられる。たとえば火災で焼失した家財道具の算定などがこれに含まれ、このような場合には、一般的な基準を用いて大枠において損害額が算定される。」とある。

(イ) 832頁の注記中では、「加藤『前揚(註八)』一〇四頁。加藤説は、消失家財道具の算定について、本来的証明法があるが、それによる立証を求めることが社会的に相当でないことから、損害額を基礎付ける事実を立証の容易なものに変更して、損害保険会社の基準とするモデル家庭の家財道具の価格をもって損害額を算定しているのであり」との記載が見られる。

エ そこで、例えば、保険会社各社がホームページなどに掲載した、世帯主の年齢や世帯構成員の人数などを加味したモデル家庭の標準的な家財道具の総額を証拠提出して意外に家財価格が大きいことを立証して、家財損害についての具体的な主張が決して過大な保険金請求ではないことを示すと共に、少なくとも〇〇万円程度の損害はあるはずであると主張して、裁判官が心証を得て民事訴訟法248条による認定をしやすくするという立証方法が考えられる。

弁護士 吉武 みゆき

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