ハンセン病特別法廷についての最高裁報告書

2016年05月11日

平成28年4月25日、最高裁事務総局は、ハンセン病患者を当事者とする裁判を裁判所外で行っていたいわゆる「特別法廷」について、違法性を認め謝罪する報告書を発表しました。

 

裁判は、当然ながら、裁判所で行われます。裁判所の施設で裁判を行うことは、当事者の裁判を受ける権利を保障し、裁判の公開の原則を保障し、ひいては裁判の公正さを担保しているのです。

しかし、かつてハンセン病患者を当事者とする裁判は、裁判所法の特別の定めにより、開廷場所をハンセン病療養所内と指定され、裁判所外で法廷が開かれていました。このような開廷場所の指定行為が裁判の公開を定める憲法37条、82条1項に反するとして、全国ハンセン病療養所入所者協議会等が最高裁に対し検証を求め、それに応える形でこれまで調査が行われてきました。

 

最高裁の調査報告書では、ハンセン病を理由とする裁判所外での開廷は、1948年(昭和23年)から1972(昭和47年)まで95件を認可、1件は撤回、不指定事例はなかったとしています(認可率99%)。そして、基本的に当事者が現にハンセン病に罹患していることが確認できれば開廷場所の指定を行うとのいわば定型的な運用を行っていたとし、これはハンセン病患者の場合のみ、例外的な場合にのみ行うべき指定を実際にはむしろ原則的に行うという取り扱いを行っていたことを意味し、遅くとも昭和35年以降については、合理性を欠く差別的な取り扱いであり、裁判所法69条2項に違反するものであったと認めました。また、最高裁判所のこうした運用は、一般社会における偏見・差別を助長するものとなったこと、さらには当事者であるハンセン病患者の人格と尊厳を傷つけるものであったことを深く反省し、お詫び申し上げると述べました。

一方で、実際に行われていた特別法廷が、裁判の公開原則に反するのではないかという点については、裁判所の掲示場や開廷場所の正門等において告示を行っていたことなどから、公開の原則には反していなかったとしました。

 

最高裁が、過去の司法行政事務を調査・検証し、自らの過ちを認めてお詫びし、再発防止を誓ったことは、極めて画期的なことと言えます。国の機関が自らの過ちを自ら検証し、謝罪するというのは今までなかったことといえるでしょう。

しかし、「特別法廷」の違憲性を認めていない点で、ハンセン病患者に対する差別の本質に関する問題意識が不十分といえ、問題があると考えられます。

この点について、有識者委員会は「ハンセン病療養所は、それ自体が激しい隔離・差別の場であり、その内部における法廷も一般社会から隔絶された隔離・差別の場であったと言わざるを得ない。傍聴も在園者、家族そして職員にとどまるものであったと思われる。そもそも、療養所自体一般の人々の近づきがたい、許可なくして入りえない場所であるから、その中に設けられた法廷は、さらに近づきがたいものであった」などとして、公開原則を満たしていたかどうか違憲の疑いはなおぬぐいきれないとしていました。

有識者委員会の意見の方が、当時の療養所の状況や社会状況を踏まえ特別法廷の意味、実情を理解しようとしているものと評価できます。特別法廷は、公開原則を満たさないだけでなく、法曹関係者全員が予防衣を着て、証拠物を火箸で扱うなど、ハンセン病患者である被告人に対して、非人間的・差別的な取り扱いを行っていた事件もあります(菊池事件)。

私たち弁護士も、この特別法廷にかかわっていながら、改善することができず、その後も検証すらせず現在まで放置していたことの責任を重く受け止めなければなりません。

法を厳格に適用すべき司法の場において差別がなされることや重大な人権侵害が二度と起きないよう、裁判所、検察庁及び弁護士会は、徹底したさらなる調査・検証を行っていかねばなりません。そして、「特別法廷」の違憲性を明確に認めたうえで、改めてハンセン病回復者及びその家族に謝罪し、名誉回復措置を図ることを求めていかねばなりません。

 

弁護士 諸隈 美波

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