裁判員裁判

2010年07月07日

 平成21年5月に始まった裁判員裁判制度ですが,平成22年3月に初めて裁判員裁判の弁護人を担当しましたので(主任弁護人は配川寿好弁護士),ご報告します。

【事件の中身】事件は,平成21年6月,男性会社員(被告人)が,北九州市内のマンションの一室に自殺目的でガスを充満させ,コンロの火で着火し,爆発させた激発物破裂罪と,勤務中に回収した金銭を着服したという業務上横領罪でした。

 犯行内容について争いのない自白事件でしたが,起訴後,刑の重さを左右する情状事実について,被告人は争う姿勢をとりました。一つは,ガス爆発の 動機は横領発覚を恐れて,前途を悲観した点にあるのか(検察側),長年にわたる業務多忙により「うつ状態」に陥った結果であるのか(弁護側)という点,も う一つは,コンロに点火する際,ガスが部屋に充満し,爆発する状態であることにつき確実であるとの認識であったのか(検察側),確実であるとの認識までは なかったのか(弁護側)という点です。

【実際の審理は】公判は3日間でした。1日目の午前中は裁判員の選任手続が行われ,その日の午後以降,2日目の 夕方までが審理,3日目の午前から午後3時までの裁判体の評議を経た後に判決宣告があるという日程です。 6名の裁判員は,一日目は皆さん緊張されている 様子でした。選任の直後に広い公開法廷の法壇に座るのですから当然ではないかと思います。

 検察側は,冒頭陳述で,犯行内容の説明にコンピューターグラフィクスによるイラストで説明を行いました。そのようなイラストの内容や説明の進め方 を見ると,組織をあげて周到に準備しているという印象を持ちました。私たち弁護側も,ポイントを絞った書面を用意し,配付済み資料の内容を意識しながら, 早口にならないように説明をするなどの工夫をしてみました。 被告人質問では,「あなたはうつ状態であったのに,会社には出勤できていたのですね。」とい う裁判員の実体験に基づいたのではないかと思われる質問や,「業務多忙であったのに,趣味のパチンコにはいつ行っていたのか。」など,検察側,弁護側の質 問にも出てこない鋭い質問もなされました。従来の職業裁判官の裁判では感じなかったある種の新鮮さがあり,弁護人の弁護活動も一層気を抜けないものになる との感想も持ちました。

【判決内容】検察官求刑の8年に対して宣告刑は7年でした。判決理由では,争点のうち,犯行動機については検察 側の主張が認められました。他方,ガス充満の認識については,犯行の数時間前に睡眠薬を飲んでいたにもかかわらず,捜査段階での被告人の供述があまりに理 路整然としている点でかえって不合理,不自然であり,検察官の主張は採用できないとされ,弁護側の主張どおりの認定がなされました。

【感想】ガス充満の認識に関する判決理由部分は,捜査段階の供述内容があまりに作文的で(捜査段階の調書は常に そうなのですが),裁判員には奇異に感じられた結果なのではないかと思います。従来の刑事裁判において捜査段階の供述は高率で証拠とされていましたから, 裁判員裁判は大きな変化を刑事裁判にもたらしているように思います。

 弁護人としては,分かりやすい主張,立証のために,イラストの活用など工夫すべき点は多くあります。その反面,裁判員の負担軽減を目的に組まれる 過密な審理日程では,主張と立証に十分な時間がかけられない可能性も大きく,実際に今回の裁判でも被告人質問の時間が不足しました。弁護人としてのスキル を磨くとともに,制度運用に関しても積極的に意見を述べる必要があるでしょう。

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