2009年新年号 歴史認識・憲法解釈で政府見解をくつがえす言論

2009年05月28日

事務所ニュース

北九州第一法律事務所では,季刊誌「HOKKYU」を年に2回発行しております。
ここでは,その中から抜粋した記事をご紹介いたします。?

田母神・前空幕長先頭に

 田母神俊雄空幕長(当時)が軍事組織のトップでありながら,アパグループの懸賞論文に応募し,歴史認識や憲法解釈について,政府見解をくつがえす主張を展開した事実が判明しました。

 元空幕長は,旧日本軍の中国侵略について「我が国は蒋介石により…引きずり込まれた被害者」などと全面否定しています。植民地支配についても「圧政から解放され,また生活水準も格段に向上した」などと美化しています。

 そして「我が国が侵略国家だったというのは正(まさ)に濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)である」と主張しました。さらに氏は,集団的自衛権の行使や攻撃的兵器の保有禁止という政府の憲法解釈にも真っ向から異議を唱えています。

 自衛官も公務員であり,憲法九九条の憲法尊重擁護義務に完全に違反する行為です。


職務権限使い,暴論の教育

 問題はこれだけではありませんでした。空幕長として,全国の基地で訓話と称して,暴論をくり返し続けてきました。「訓話は,上級者が部内の者に対して教えを諭すために実施する」(防衛相)ことですから,職務権限を使って暴論の「教えを諭」し続けたことになります。

 歴史認識や憲法解釈について,政府見解を真っ向から否定し,「われわれ(自衛隊)が外に向かって意見を言っていかなければならない」「問題はなんぼ起こしてもいいから頑張って下さい」と違反を承知で激励するという,まさに言論によるクーデターです。


「靖国」派が講師陣に

 元空幕長は, 自衛隊の幹部教育を行う統合幕僚学校で学校長を務めた時に,「歴史観・国家観」という講義を新設しました。そして「教育目標」として「健全な歴史観・国家 観を育成」することをあげ,“東京裁判は誤りだ”,“侵略戦争ではなかった”との教育を行ってきました。講師陣は,先の戦争は正しかったと主張する「靖 国」派が多数を占め,受講した幹部自衛官は四〇〇人に達しています。しかも,自衛隊を監理・監督する防衛相が,こうした教育内容や講師陣についてなんら把 握していませんでした。

 防衛大学校の必須科目の教科書も日本の全ての戦争を「自衛の戦争」としていることも明らかになりました。


これ以上の暴走を許さない

 空幕長の解任 は「言論の自由」への侵害であり「思想統制につながる」との一部の主張は,ことの本質を見ようとしないものです。一般隊員には厳しい規制を加えながらトッ プが自身の勝手な主張を職務権限を使って押しつける,しかもその内容は自衛隊を反憲法的な方向に向かわせようという二重に誤った行為です。にもかかわら ず,懲戒処分をせず,七千万円もの退職金を支給しました。

 最大の暴力性と強制力を行使できる軍事組織である自衛隊が暴走すれば取り返しがつかない事態となります。だからこそ,シビリアンコントロール(文民統制)という制度で自衛隊の活動が規制されているのです。

 アメリカから憲法を変えて海外派兵できるようにとの公然とした干渉も強まっています。田母神問題はこうした政治的動きと一体のものです。

 これ以上の暴走を許さない国民の厳しい監視が重要です。


 働いても人間らしい生活を営むのに十分な収入が得られない「ワーキングプア」が増えています。年収二〇〇万円以下で働く民間企業の労働者は一〇〇〇万人を超えました。

 ワーキングプアの増大の原因のひとつとなっているのが派遣労働の問題です。派遣労働に関して定められている「労働者派遣法」の改正案が二〇〇八年十一月四日,閣議決定され,臨時国会に上程されました。

 一部報道では,この派遣法改正案が日雇い派遣を原則として禁止する良い内容の法案であるかのように言われました。しかし,改正案にはさまざまな問題があり,抜本改正にはほど遠いと考えます。

 第一に,今回の改正案では,派遣対象業種の限定には手がつけられていません。派遣対象業種は専門的な業種に限定すべきです。

 第二に,改正 案では,三十日以下の派遣を禁止するといいますが,全面的禁止ではない上,派遣元と派遣先の「日々派遣契約」を禁止していないので,労働者が派遣元とだけ 三十一日以上の契約を結び,実際には日々,派遣先が変わるということが可能になってしまいます。しかも,労働日や労働時間の規制がないので,「所定労働時 間はシフト表による」などとされて,期間内にポツポツとしか仕事が入っていないようなことも許されてしまいます。これでは,日雇い派遣の不安定さの解決に は,全くなりません。

 第三に,改正案では,仕事があるときだけ賃金が支払われ,仕事がないと賃金が支払われない「登録型派遣」が許されたままになっています。このような登録型派遣は,諸外国では認められていません。登録型派遣は禁止すべきです。

 第四に,今の 派遣法は,派遣期間経過後に派遣労働者を直接雇用することを努力義務としており,期間経過後に働き続ける派遣労働者に対して派遣先が直接雇用を申し込む義 務を課しています。しかし,それをせず派遣状態を続ける違法事例が絶えません。今回の改正案では,監督機関が派遣先に直接雇用の申込みを勧告できるとして います。しかし,勧告だけでは不十分です。期間経過後の派遣や偽装請負については,派遣先が直接雇用したものとみなすという規定が必要です。

 第五に,今回 の改正案は,派遣労働者の賃金について「同種業務の一般賃金水準」を考慮する努力義務を派遣元に課しています。しかし,派遣先社員との均等待遇の義務規定 が必要です。ちなみに,EUでは,派遣労働者の派遣先従業員との同一価値労働同一賃金が法制化されました。

 第六に,現 在,派遣先が派遣元に支払う派遣料金と,派遣元が派遣労働者に支払う賃金との間に大きな開きがあり,派遣労働者の低賃金を招いています。改正案はマージン 率の情報提供義務を派遣元に課していますが,それでは不十分で,マージン率の上限を規制することが必要です。

 そのほかにも,改正案には,グループ内派遣を全面禁止していないことや,期間の定めのない派遣労働契約について,派遣先が誰を働かせるか面接して決められる(本来直接雇用にすべき場面の脱法)という問題点があります。

 日弁連は二〇〇八年十一月六日,「労働者派遣法『改正』案に反対し,真の抜本改正を求める会長声明」を出しました。抜本改正を求める運動を頑張って行っていきたいと思います。

Comments are closed.