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万引きを繰り返す・・・それって病気?

Aさんは、私が以前刑事事件で担当した方でした。

スーパーでの万引きで逮捕されましたが、執行猶予付きの判決を受けたため、刑務所には入っていませんでした。

 

そのAさんから「また万引きで捕まってしまった」と連絡があったのです。

私がその知らせを聞いたときは、正直、前回の裁判のときは、今後二度と同じことをしないと誓っていたのに、どうしてと思いました。

そして、Aさんと会い、よくよく話を聞いてみると、Aさんは十分な所持金を有しているのに、理由もなく万引きを繰り返し、万引きのときの状況もうまく話すことができません。その状況をおかしいと思い、精神科医の診断をすすめたところ、専門医において窃盗癖と診断されました。

私は、再びAさんの弁護人となり、早速その診断をした先生に話を聞きにいきました。

先生によると、窃盗癖とはクレプトマニアとも呼ばれる精神障害の一種で、同じことを繰り返し、自分自身で行動を制止できない症状で、衝動制御の障害だということでした。

Aさんは、その診断を受けたことで、自分が今まで繰り返してきた窃盗行為は、自分の意思だけではなかなか止めることが出来ないものだと認識するようになり、本格的に治療を受けたいと思うようになりました。

そして、依存症や窃盗癖の患者さんを多く診ている「赤城高原ホスピタル」という群馬県の病院に数ヶ月入院しました。入院中Aさんは、先生とのカウンセリングで自分の人生を振り返ったり、同じ症状で苦しむ他の患者さんの前で体験を聞いたり、また自らの体験を語るなどして、Aさん自身の弱さや問題点と徹底的に向き合いました。制限が多い入院生活はAさんにとってとても苦しいものでしたが、それでも家族にこれ以上迷惑かけてはならないという思いで必死にプログラムに取り組みました。

Aさんは入院を経て、とても表情が柔らかくなり、これからは地元の病院でプログラムを続けることや、今後万引きをしないための具体的な方法など、前向きに語るようになっていました。何より、それまで家族に心配をかけまいと何でも一人で抱え込んできたことを反省し、今まで家族に話していなかった辛い経験などもすべて家族に話した上で、今後は家族と一緒に更生の道を歩んでいきたいと語っており、私はAさんの変化に驚きました。

私は、窃盗癖とはどういうものかということや、Aさんのこのような変化を裁判において主張し、再度社会内でやりなおすチャンスがほしいと再度の執行猶予を求めました。

しかし、高裁まで争いましたが、結果的に再度の執行猶予は認められませんでした。Aさんは、執行猶予中の犯行であったため、前回の刑も含め服役することになりました。

窃盗癖だからという理由だけでAさんの犯した罪が許されたり、軽くなったりするわけではありません。ですが、Aさん自身は窃盗癖と診断されたことで、自分が抱える課題や問題点を明確に意識することができるようになり、今後引き続き自助グループにも通い再犯を行わないようにするための取り組みも具体的にしていました。弁護人としては、社会内での更生が期待できると考えていたのでとても残念でした。何よりAさん自身が、前回のときよりも全く変わっていたことや、家族も真に協力の姿勢を示していたので、悔しくてなりませんでした。

Aさんは、裁判中、自分と同じように窃盗を何度も繰り返している人に、自分の経験を伝えて励ましてあげたいと話していました。同じように、毎回反省しながらも、どうしても繰り返してしまう人がいれば、窃盗癖を疑って一度専門の医師を訪ねてみてはどうでしょうか。

私自身、一度目のときに、病気の可能性について疑わず、きちんと受診するようにすすめられず、結果的に再犯に至ってしまったことは本当に悔しく思っています。

同じような状況で苦しんでおられる方、そのようなご家族がいる方にとって、少しでも参考となれば幸いです。

弁護士 諸隈 美波

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