コラム~火災保険裁判を経験して 2

2017年04月17日

火災保険「重過失免責」とは?

(1)保険約款上の重過失概念

論文「自動車事故と重過失免責」(判例タイムズ№1269 65~67頁)によれば、保険上の重過失概念については下級審判例の多数は保険約款上の重過失の意味を通常の重過失の意味にとらえているとのことである。

すなわち、最高裁昭和57年7月15日判決と同様に、商法641条及び829条にいう重過失と同趣旨、すなわち「通常人に要求される程度の相当な注意をしていれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然とこれを見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すもの(最高裁昭和32年7月9日判決、大判大2年12月20日判決)と解しているとのことである。

(2)火災事故の重過失認定判例

上記に論文中の裁判例リスト(判例タイムズ№126974頁、79頁以下)に掲載された、火災事故で保険約款上の重過失が争点になった判例は次のとおりであり、これらの判例のうち重過失をみとめた判例をみると、いずれも火災の発生が十分に予見可能であるとみとめられる事案であるといえる。

① 東京高等裁判所昭和59年10月15日判決(判例タイムズ№540)

狭い物置の段ボール箱の中にタバコを故意に放置しており、出火について重過失をみとめた。

② 津地方裁判所伊勢支部平成1年12月27日判決(判例タイムズ№731)

火災の4ヶ月前から漏電を疑って再三調査を依頼し、漏電の可能性を指摘されて回線修理と不在時のブレーカー切断の指導を受けていながら、回線修理をせずに関係のないブレーカーのスイッチを切っていただけであるので、漏電による火災発生を未然に防止する手だてを何らつくしていなかったとして重過失を認めた。

③ 東京高等裁判所平成4年12月25日判決(判例タイムズ№858)

居間の暖炉とガスストーブの火を消さずに外出しても、比較的短時間で戻ってくるような場合ストーブをつけたままにしておく程度のことはありがちなことであるし、暖炉の薪はほとんど燃え尽きていたこと、火元近くに特に引火しやすい物がおかれていたとも認められないとして重過失を認めなかった。

④ 仙台地方裁判所平成7年8月31日判決(判例タイムズ№896)

火災発生前夜特に格別の用件もないのに洋品店内に入って、石油ストーブに点火し、その20㎝という距離に発火しやすい洋服のかかった吊り台を放置したまま立ち去っていることから重過失を認めた。

⑤ 福島地方裁判所会津若松支部平成8年3月26日判決(判例タイムズ№918)

建物の西側に大型の石油タンクが設置されているのに、無施錠のまま3ヶ月も空家のまま放置したことか、または放火目的のある犯人が鍵を所持しており鍵の管理が不十分であったことについて重過失を認めた。

⑥ 東京高等裁判所平成10年4月23日判決(判例タイムズ№1032)

火災の発生を認識あるいは予見していたにもかかわらず、その発生の防止のための措置を何ら採らずに、室内に竹製品や段ボール等の燃えやすい素材がおかれているのをそのまま放置して外出したものであることを理由に重過失が認められた。

⑦ 熊本地方裁判所平成11年3月17日判決(判例タイムズ№1042)

建物の火災について、右建物を管理・使用していた保険契約者の友人等に重過失がみとめられた事件であるが、火気が和室内に残っており、退出後は無人となり、火気管理者が深夜に長時間不在となる上、灰皿に吸い殻と油の付着したティッシュペーパーが満杯であって、周囲に燃えやすい発砲スチロールの皿が存し、発火する危険性のある状況であり、その近くにこたつ布団等の可燃物や、プロパンガスのボンベ等の危険物も残置されていたので、退出時に可燃物や危険物を取り片付けて、灰皿の火気も含めて消火を十分に確認するなど殊更に火災を生じないようにするべきであったのに放置して漫然と退出していることを理由に重過失を認めたものである。

⑨ 名古屋地方裁判所平成15年1月29日判決(判例タイムズ№1133)

店舗総合保険契約が締結されたパチンコ店の火災事件であるが、通用口のドアがこじ開けられていることや、自動火災報知設備の電源が切れていること、及び電話回線を復旧しないと警備のセンサーが作動しないことを告げられて、警察への通報を進められたにも拘わらず、直ちに現場にかけつけたり、警察に通報しなかったりしたことについて、事故当時の状況からして通常あり得ない行為であるとまでいうことができないことを理由に重過失が認められなかった。

⑩ 東京地方裁判所平成15年6月23日判決(判例タイムズ№1141)

たばこの不始末による火災事件であるが、たばこの火を消した認識があったことや、一般に燃えにくいとされる革製品があって、その上にたばこの火がこぼれ落ち、3~4時間にわたって無炎燃焼を続けた上に出火したという一般的に想定しにくい内容であったことから、わずかの注意をすれば予見できたのに見過ごしたとはいえないとして、重過失を認めなかった。

⑪ 広島高等裁判所平成17年1月18日判決(判例タイムズ№1196)

病理的な精神状態にある18歳の長男による自宅放火事件であり、事件前にも室内でマッチを使用して燃やすなどの行為に出ていたという事情がある。

医師の指導助言に従っていたこと、衝動的な行動に及ぶ性格のある長男がその日のうちに放火行為に及んでいないので火災前の行為と事件を関連づけられないこと、主として長男の病理的な精神状態に起因する放火行為であること理由に、親の重過失を認めなかった。

弁護士 吉武みゆき

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