「相手の住所や氏名がわからなくても裁判はできる?②」

2018年10月25日

調査1 前回記事の続きです。

 稀なケースですが,裁判を起こしたい相手の住所も氏名もわからない場合があります。

 最近あるのは,振り込め詐欺の事案で,振込先口座の口座名義人や口座番号だけはわかっているが,その他の情報がないという場合です。

 また,私の担当した事件では,いわゆる誤振込(支店番号,口座番号を間違い,他人の口座にお金を振り込んでしまった)の事案で,振込先口座の口座名義人(カタカナ表記)と口座番号はわかるのですが,正確な氏名や住所はわからないということがありました。

 私の担当した上記事件を元に,相手の住所や氏名がわからない場合にも裁判をすることができる場合があることについて説明したいと思います。

2 この事件では,まず,金融機関に,弁護士法23条の2に基づき,口座名義人の住所,氏名を照会しました。

 金融機関からは,口座名義人の登録している連絡先宛に電話と手紙で連絡して頂きました。通常はこの段階で口座名義人と連絡がついて解決(組戻し)ができることが多いと思いますが,本件では口座名義人からの応答が全くありませんでした。

 金融機関からは,口座名義人の承諾が得られない以上,口座名義人の住所,氏名は開示できないとの回答がありました。

3 そこでやむなく,裁判を行うことにしました。

 前回述べたとおり,裁判を起こすにあたっては,相手の住所,氏名を必ず記載しなければなりません。しかしこの件では,訴状に,カタカナ表記の口座名義人名と,口座番号のみを記載し,裁判所に提出しました。

 この場合,訴状に必要な事項が記載されていないとして却下されてしまうリスクがありますが,この点については裁判例があります。

 すなわち,名古屋高等裁判所金沢支部平成16年12月18日決定は,オレオレ詐欺の被害にあった原告が,被告を銀行の口座番号と口座名義人(カタカナ表記)で特定して提訴した事案について,「被告の特定について困難な事情があり,原告である抗告人において,被告の特定につき可及的努力を行っていると認められる例外的な場合には,訴状の被告の住所及び氏名の表示が上記のとおりであるからといって,上記の調査嘱託等をすることなく,直ちに訴状を却下することは許されない」として,富山地方裁判所による訴状却下命令を取り消したものです。

 私の担当した事件でも,この裁判例などを引用しつつ裁判所に説明したところ,訴状は却下されず,事件として受理されました。

 そこで,次に,裁判所に「調査嘱託」を申し立て,裁判所から金融機関に対し,再度,口座名義人の住所,氏名を照会してもらいました。金融機関側も,裁判所からの照会であればということで,口座名義人の住所,氏名が回答され,ようやく相手の住所,氏名が判明しました。

 なお,この事件では,判明した住所,氏名から戸籍等を調査したところ,口座名義人が既に亡くなっていることがわかり,その後は口座名義人の相続人を相手として手続を行いました。最終的には,時間がかかりましたが,回収を行うことができました。

4 以上のとおり,例外的なケースですが,当事者の住所や氏名がわからなくても法的手続を行うことができる場合もありますので,一度弁護士に相談して頂ければと思います。

弁護士 今 里  晋 也

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