フットケア事件 無罪判決のご報告

2009年05月07日

弁護士 天久 泰

1,2007年6月,看護師の上田里美さんは入院患者2名の足の爪を虐待目的で切ったとして逮捕されました。昨年9月16日,福岡高裁は,傷害罪で有罪 (懲役6ヶ月,執行猶予3年)とした一審判決を覆し,上田さんに対して無罪判決を宣告しました。この事件の高裁以降の経緯についてご報告します。
2,高裁では,一審の弁護人である私と東敦子弁護士のほかに,上田國廣弁護士,高平奇恵弁護士,品川菜津美弁護士に弁護団へ加わっていただき,より充実した弁護活動を行うことができました。
 具体的には,上田さんのフットケアの技術が,現場での経験に裏打ちされた確かなものであることを具体的に伝えるため,上田さんの実際の爪切りの様子を録画したDVDを法廷で上映しました。
 また,高齢者のフットケアに詳しい医師に,本件の爪の状態に関して尋問を行って,看護水準との関係でも問題のない爪切りであるとの証言を得ました。他方で,検察側の鑑定人である医師までもが,上田さんの爪切りに問題はないとの趣旨の証言をしました。
3,このような審理を経た福岡高裁の判決は,一審判決とは大きく方向性の異なる内容となりました。
 本事件の最大の争点は,上田さんの爪切りに正当業務行為性が認められ,違法性が否定されるかという点です。一審判決は,「痛みや出血があってもかまわな い」,「爪切り行為自体に楽しみを覚えた」など,逮捕後に捜査機関が上田さんから無理矢理録取した自白を重視して正当業務行為性を否定しました。正当業務 行為性の判断基準についても,上田さんの主観面の評価に重きを置くものだったのです。
 これに対し,福岡高裁は,行為が(1)看護の目的でなされ,(2)看護行為として必要であり,手段,方法においても相当であればよい,そして(2)が認定されれば,(1)は特段の事情なき限り認定すべきであるとしました。
 つまり,本件で言えば,爪切り後の写真から分かる爪の状態や,爪切り方法の再現など,専門家の評価が可能な行為の客観的側面を重視して,その側面で問題がなければ,原則として違法性は否定されるとしたのです。
4, 福岡高裁での判決宣告日。裁判長が「一審判決を破棄する。被告人は無罪。」と告げると,傍聴席に座る支援者の方々から大きな拍手がわき起こりました。上田 さんは被告人席で泣いていました。逮捕から約3年。ようやく被告人の立場から解放された瞬間でした(判決は2010年10月1日午前0時に確定)。
 無罪判決により刑事裁判は終わりましたが,上田さんの社会的名誉の回復という課題は残っています。弁護団としては,この次の課題についても全力で取り組んでいきたいと思います。

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