大津地裁・高浜原発運転差止決定の意義

2016年04月18日

1 はじめに

 2016年3月9日、大津地方裁判所は、政府により再稼働が認められていた高浜原発3、4号機の運転差し止めを電力会社に命じた。

 福島原発事故による被害は5年を経ても解決のめどが立たず、いまだに溶け落ちた燃料を取り出すこともできず、取り出して運び出す先も決められない現状である。にもかかわらず、政府は、早々に再稼働の方針を決めた上、世界への原発輸出を促進している。このような政府の動きに対し、各地で脱原発を求める裁判や福島原発事故による被害からの救済を求める裁判が提起されている。

 本稿で紹介する大津地裁決定(以下では、単に「決定」という。)は、このような情勢の元で出された決定であり、4点の画期的な意義を持っている。詳しく紹介したい。

 

2 意義その1~運転差し止めの判断ができる裁判官は1人ではない!

 決定は、申立人(債権者とも言う)及び相手方(債務者とも言う)電力会社の主張立証責任について、1992年伊方原発最高裁判決にしたがいつつ、まずは電力会社側に原子炉施設の安全性に関する主張立証を求め、その主張立証ができなければ、差し止めを認めるとした。重要なのは、これに加え、福島原発事故を踏まえ、①原子力規制行政がどのように変化したか②その結果、設計や運転のための規制が具体的にどのように強化されたか③電力会社がこの要請にどのように応えたかについても電力会社が主張立証しなければならず、以上の主張立証は、政府(原子力規制委員会)が再稼働を認めただけでは足りないとした点である。

 決定は、こうした判断枠組みの元で、電力会社の主張立証が不十分であることを理由として差し止めを認めた。川内原発の運転差し止めを認めなかった2015年4月鹿児島地裁決定も最高裁判決を同じ判断枠組みを採用している。したがって、同じ判断枠組みの元でも大飯原発の運転差し止めを認めた樋口裁判官と同様の結論に至ることができる、ということが示された点に大きな意義がある。

 もちろん、こうした両裁判官の判断に共通するのは、福島原発事故とそれによる甚大な被害が基礎となっている点であることも重要である。

 

3 意義その2~政府や電力会社に突きつけられた問題点

 決定が特に紙幅を割いているのがいわゆる過酷事故対策である。福島原発事故により原発安全神話が神話でしかなかったことが明るみに出て、原発は、炉心損傷を伴うような過酷事故を引き起こすことを前提に設計されるようになった。原発立地自治体でヨウ素剤が配布されたり、避難計画が策定されているのも事故の後である。

 決定は、こうした過酷事故対策について、福島原発事故の原因が不明であり、電力会社のこの点に関する主張立証が不十分であるにもかかわらず、電力会社がこの点に意を払わないのであれば、そしてそれが原子力規制委員会の姿勢であるなら、そもそも「新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚える」とした。

 事故原因すら分かっていないのに、「世界最高水準の事故対策を講じた」として再稼働を進めてきた政府、電力会社に根本的問題点が突きつけられたと言える。電力会社のみが訴えられているにも関わらず、決定では、随所でこうした政府に対する問題点の追及が行われている。

 

4 意義その3~近隣自治体からでも差し止めができる!

 個人的に最も重要な意義は、近隣自治体からでも差し止めができることを認めた点である(大津地裁は滋賀県に所在、高浜原発は福井県に所在する。決定は、「債権者らは、本件各原発から70キロメートル以内の距離で、滋賀県内の肩書地において居住する者」とする。)。

 これまで、原発の問題は常に立地自治体の問題として矮小化されてきた。政府や電力会社は立地自治体に「カネ」を配り、立地自治体対策を徹底的に行い、原発への異論を封じ込め、民主政の過程を崩壊させてきた(このことは玄海訴訟で主張済み。)。

 しかし、福島原発事故でこの状況は一変した。放射性物質は県内外を問わずに拡散し、この北九州市ですら避難計画を定めているのである。「立地自治体ではなく、被害自治体」、このことを正当に認めた本決定の意義は大きい。

 

5 最後に

 決定の持つ意義の4つ目は、稼働中の原発を差し止めたということである。再稼働審査を通過した高浜3、4号機のうち、3号機は決定が出された当時現に再稼働していた(4号機はトラブルにより停止中。)。決定の翌日には3号機が停止された。原発を操業する関西電力は、再稼働を踏まえあらかじめ公表していた電気料金の値下げを見送らざるを得なくなった。

 決定に対し、関西経済連合会副会長は、「なぜ一地裁の裁判官によって、国のエネルギー政策に支障をきたすことが起こるのか」、「こういうことができないよう、速やかな法改正をのぞむ」と述べ、関西電力社長は、「上級審で逆転勝訴した場合、(申し立てた住民への)損害賠償請求は検討の対象になりうる」と述べた。いずれの発言もその不見識ぶりに呆れるほかないが、ここで示されたのは、どれだけ電力会社にとって原発が重要か、原発を巡る利権構造が現在も温存されていることの問題性である。

 2016年は電力自由化元年などと称されているが、本当に自由化したのだろうか。こうした構造にメスを入れられなければ、私たちが原発から本当に自由になることはできない。決定は、改めてこうしたことにも私たちの目を開かせてくれたものとして高く評価できる。

 なお、決定を勝ち取った弁護団長を務める元裁判官の井戸謙一氏による決定の論評が2016年3月20日付しんぶん赤旗に掲載されている。これも決定の内容がよく分かる素晴らしい論評となっているので、ぜひお読み頂きたい(QRコードに携帯電話をかざすとホームページでも読むことができます。)。

6 補足

 原稿をここまで書いたところで川内原発差止について住民側が敗訴し、上訴(即時抗告)していたのに対し、福岡高裁宮崎支部が決定を下したのでコメントする。決定は、「どのような事象が生じても発電用原子炉施設から放射性物質が周辺の環境に放出されることのない安全性を確保することは、少なくとも現在の科学技術水準をもってしては不可能」「最新の科学技術的知見を踏まえた予測を行ったとしても、当該予測を超える事象が発生する危険(リスク)は残る。」「そのようなリスクを許容するか否か、許容するとしてどの限度まで許容するかは、社会通念を基準として判断するほかない。」として、そこで言う社会通念を「改正後の原子炉等規制法の規制の在り方には、我が国の自然災害に対する発電用原子炉施設等の安全性についての社会通念が反映している」とする(58頁以下)。

 この裁判官は、福島原発事故とそれによる甚大な被害を踏まえ、私たち国民の圧倒的多数がこのようなことは二度と繰り返すまいと原発再稼働に反対していることを無視し、原発再稼働を推進して改正を強行した政府の姿勢から「社会通念」を導いている。言語道断と言わざるを得ない。

 この決定からも、やはり私たちは、福島原発事故による被害を法廷内外で訴え、再稼働に反対する民意をより大きく、強固にしていく必要があることが分かった。今後とも原発なくそう!九州玄海訴訟、川内訴訟へのご支援を心よりお願いしたい。私も原発なくそう!九州玄海訴訟弁護団の一員として決定のこうした意義を活かし、今後も脱原発へ向けて1万人原告とともに奮闘する決意である。

以上

 

弁護士 池上 遊

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