踵骨アキレス腱付着部裂離骨折の後遺障害

2018年06月15日

骨折1 事故内容

 横断歩道横断中の60代女性が,左折中の自動車のタイヤに足を踏まれ,踵骨アキレス腱付着部裂離骨折の傷害を負いました。

2 治療内容

 女性は入院して骨折部をスクリューやアンカーで固定する手術を受けましたが,骨折部の骨片が一部体内に残存してしまいました。また,切開部である踵の皮膚の状態が良くなかったために入院が長引き,退院までに100日間を要しました。

 退院後もリハビリ治療のために約4か月間通院を続けましたが,事故から約8か月で症状固定となり,後遺障害診断書が作成され,事故相手加入の任意保険会社による一括対応(治療費の支払いなどの対応)は終了しました。

3 事前認定の結果~後遺障害等級非該当

 女性の後遺障害診断書に基づき自賠責保険料率算定機構による審査が行われましたが,結果は後遺障害等級非該当でした。後遺障害診断書には,「骨片残存」などの記載がある一方で,「皮膚切開瘢痕部にしびれ感と痛みあり」との記載があったため,切開部の痛みであれば将来改善される見込みが高いという理由で,後遺障害には該当しないと判断されていました。

 その後,女性は相手方加入の任意保険会社から示談の提案を受けましたが,後遺障害等級非該当であるため,とても納得のできる内容ではありませんでした。

4 異議申し立ての準備

 保険会社の提案に納得できない女性は,当法律事務所へ相談に来られました。女性からどのような痛みが残っているのか,事故後どのような生活上の支障が生じているのかについて聴き取りを行った私は,「これで非該当はおかしいのではないか?」との直感を持ちました。私は,異議申し立てを行い適正な後遺障害等級の認定を受けた上で,保険会社と交渉を行うという内容で受任しました。そして,以下の事前準備を行った上で,異議申し立てを行いました。

⑴ 医療記録の取り寄せ

 異議申し立ての第1段階として,カルテなど医療記録の入手は不可欠となります。

 本件でも医療記録を取り寄せ,依頼者が受傷後症状固定に至るまでの間どのような痛みを訴えていたのか,手術内容及びその後の治療内容などを精査しました。

⑵ 医学知識の補充

 後遺障害等級認定に関する異議申し立てには医学的知見に基づく主張が不可欠ですが,弁護士は医療の専門家ではないため,医学文献を調査したり,協力医からコメントを頂いたりするなど医学に関する知識の補充を行う必要があります。

 本件でも,踵骨アキレス腱付着部裂離骨折に関する医学文献や論文の調査を行いました。

⑶ 主治医との面談

 医療記録を検討し,医学知識の補充も行った上で,主治医との面談を行うことになります。弁護士の診察への立ち会いや弁護士による面談を断る医師も多いですが,可能な限り主治医との接触を試みます。接触が叶わない場合には,このプロセスを省略して⑷のステップへ進みます。

 本件では,主治医が協力的だったため面談を行い,後遺障害診断書に関する疑問点について直接質問することができました。

⑷ 主治医に対する意見書作成依頼

 主治医との面談を行った上で意見書作成を依頼することになりますが,面談を拒絶する医師であっても意見書の作成を断ることはまずありません。なお,ゼロから意見書の作成を依頼すると医師の負担になり,迅速な異議申立ての支障になってしまうことから,私は,質問事項に対して回答していくというスタイルの「質問事項回答書」を作成し,同書面に対する記入をお願いしています。

 本件でも,患者が主張する痛みが本当に後遺障害診断書記載のとおり「切開部瘢痕」から生じているのか,骨折部及び残存された骨片に起因する痛みである可能性はないのかを中心とした質問事項を作成し,主治医に回答書を作成してもらいました。

⑸ 依頼者の陳述書作成

 医師の意見書が重要であることは当然ですが,原則として書面審査である異議申立手続きにおいて,被害者による痛みや生活上の支障を審査機関に伝えるためには陳述書が重要な役割を果たします。

 本件でも,依頼者から聴き取りを行った私が陳述書の原案を作成し,依頼者の確認を得た上で署名押印を頂き,陳述書を完成しました。

⑹ 異議申立書の作成

 これまでの活動の総括として,弁護士である私が異議申立書を作成します。これまでの活動も重要ですが,異議申立書の作成が弁護士としての腕の見せどころです。何の狙いもなくただ闇雲に異議申立てを行ったところで,異議申立てが認められることはほとんどありません。これまでの調査を元に,どのような理由から後遺障害等級の何級何号に該当するのかについて説得的に論ずる必要があります。

 本件でも,受傷状況,他覚所見(X線画像),医師の意見,痛みに関する患者の訴え内容,診療経過などを踏まえて,14級9号(局部に神経症状を残すもの)に該当することを論じました。当該申立書に主治医作成の「質問事項回答書」と依頼者作成の「陳述書」を添付して異議申立てを行いました。

5 異議申し立ての結果~14級9合の獲得

 異議申し立ての結果,無事14級9号の認定を受けることができました。その後,相手方加入の保険会社と交渉を行い,依頼者も納得のいく示談を成立させることができました。

 このように,異議申立てにおいては,医学知識を含め十分な調査に加え,審査機関を説得するための創意工夫も重要になります。それに加え,依頼者の想いにしっかりと耳を傾け,「自分だったらこの解決内容に納得できるのか?これが正当な被害回復と評価できるのか?」という感覚も大切になると私は思います。

以上

弁護士 上野 直生

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