別居中で生活に困っている方へ(婚姻費用分担請求)
すでに夫婦が別居しているものの離婚協議がすすまず、収入も多くなく、片方の当事者が生活に困っている場合があります。このような場合には、婚姻費用分担請求を検討してみてはいかがでしょうか。
婚姻費用分担請求とは
婚姻費用とは、夫婦と未成熟子によって構成される婚姻家族が、その資産・収入、社会的地位に応じた通常の社会生活を維持するのに必要な費用であり、夫婦が互いに分担する義務がある(民法760条)。また、夫婦は相手方に自己と同等の生活を送らせる義務があります(民法752条/生活保持義務)。
そこで、夫婦のうち収入の少ない一方から他方に対して婚姻費用分担請求をすることができます。
一方的に出て行ったのだから婚姻費用を支払う必要はないという反論がみられますが、このような主張は認められません。
但し、例えば不貞をして別居に至った場合は、不貞をした一方当事者からの請求は通常は権利濫用に当たり、子供の養育費相当額以外の請求は認められないことになります。
婚姻費用の月額
婚姻費用の算定式があるので、源泉徴収票を提出するなどして夫婦双方の税込年収を確認し、それを算定式にあてはめて月額の婚姻費用を算定します。
ただし、養育費と同様に婚姻費用の算定表があるので、それを見れば計算しなくても大体の金額がすぐにわかります。
例えば、税込年収100万円の当事者が税込年収500万円の相手方に請求する場合には、いずれも自営業者ではなく給与生活者である場合には、算定表によれば、婚姻費用は月6~8万円となります。もし10歳の子供1人を連れて別居している場合には、婚姻費用は月8~10万円(養育費であれば4~6万円)となります。
なお、現在の算定表は金額が低額で現在の生活実態にあっていないなどという批判が出されており、令和元年(2019年)12月23日に最高裁判所が新算定表を公表する予定です。
手続
(1) 相手方に婚姻費用の分担を求める方法としては、家庭裁判所に調停の申立をする方法があります。
調停で合意が成立しない場合には審判に移行して裁判官が判断します(家事事件手続き法272条4項)。
当事者で支払の合意をする方法もありますが、支払わないときに給与差押え等の強制執行手続に円滑に移行できるようにするために、公証人役場で執行受諾文言付きの公正証書を作成しておくことをおすすめします。
なお、離婚調停の申立をしながら、同時に離婚成立までの婚姻費用の分担調停の申立をすることもできます。
(2) 急ぐ場合には、調停前の仮の措置の申立(家事手続法266条)や審判前の保全処分の申立(家事手続法105条以下)をする方法が考えられます。
審判前の保全処分を申立てた場合に出る仮払い仮処分命令には、執行力があるので、相手方の給与債権等の差押えや取り立てが可能です。
これに対して、調停前の仮の措置の申立をした場合に出る仮払いの命令には執行力はありません。但し、支払命令に従わなければ10万円以下の過料の制裁があるので(家事手続法266条4項)、この制裁が間接的な(心理的な)強制となって相手方に支払を促すことになります。
履行確保と強制執行
相手方が決められた婚姻費用を支払わない場合には、給与差押え等の強制執行をする方法もありますが、家庭裁判所に申し出て、履行勧告(家事手続法289条)や履行命令(家事手続法290条)を相手方に出してもらう履行確保という方法があります。
履行命令に従わない場合には10万円以下の過料の制裁があります(290条5項、人事訴訟法39条4項)