九州定温輸送事件
一, 平成二十一年六月十一日十三時十分
福岡地裁小倉支部二〇六号法廷 「主文…被告は,各原告に対し,それぞれ百十万円,及びこれに対する平成十七年七月三十一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。」
二, 事案の概要
九州定温輸送事件は,孫会社である九州定温輸送(株)の従業員であった原告ら五名が,その親会社である被告に対して,雇用関係にあることの確認等 を求めると共に,解散に伴う解雇という処分を受けることにより,精神的苦痛を被ったとして,不法行為に基づく損害賠償を求めたという事案です。
三, 争点及び判旨
(1)本件の争点は,大きく分けると,
法人格否認の法理により,親会社である被告が孫会社の従業員であった原告らの直接雇用責任を負うか,?解雇処分が親会社による,孫会社従業員である原告らに対する不法行為に該当するか,という二点です。
(2)この点,本判決では,に関して,九州定温がしていた業務は,被告と資本関係のない完全な第三者に引継ぎがなされていたことの事実を重視して,法人格の濫用の適用要件を欠くと判断しました。
他方で,同判決は,?の争点について,被告の不法行為責任を認め,原告らが求めた慰謝料百万円,及び弁護士費用十万円の計百十万円を全額認容しました。
(3)ところで,本件の原告らの中には解雇された当時,組合員でなかったものも一名含まれているところ,その原告との関係においても被告の不法行為責任を認めています。
この点について,判決書の中では「被告は,九州定温の経営が不振であるにもかかわらず,あえて業務改善のための措置をとらないまま放置し,経営不 振に藉口して九州定温を解散し,分会を排除する意図であった」と認め,「本件解散及び本件解雇は不当労働行為に該当するとともに,九州定温の従業員であっ た原告らに対する関係で故意による不法行為を構成する」とされており,「孫会社の解散及びこれに伴う従業員の解雇の全体が違法性を帯びることになるから, 親会社は,解散・解雇の当時に労働組合員ではなかった従業員に対しても,上記賠償責任を負う」。とされています。
本判決が,孫会社が赤字の状態であったとしても営業(廃止)の自由の下,親会社が子会社を通じて孫会社解散を決定できるわけではなく,親会 社が孫会社の解散及び解雇について不法行為責任を負う場合があることを認めた点,たとえ法人格否認の法理の適用要件を欠く場合であっても,別途,不 法行為責任は負うと判断した点,更に,〈?〉当該不法行為責任は,組合員のみならず,全労働者との間で負うとした点は昨今増加している解散に伴う解雇への 資本責任追及の途を開いたものであって,高く評価できます。
四, 今後の展開
(1) 被告は判決を不服として即日控訴しました。
また,原告らも労働契約上の確認及び賃金請求を認めなかった点を不服として控訴しました。更に,現在,弁護団では雇用喪失による損害として,慰謝料以外の損害を観念できないかを検討しているところで,控訴審における請求の拡張も念頭に置いています。
(2)今後は,闘いの場が控訴審に移行しますが,今後も,原告,多くの支援者,弁護団が一致団結して闘い抜く所存です。