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時効完成後に一部支払した場合について

1 債権の消滅時効について

債権には、時効というものがあります。これは、一定の期間の経過によって権利を消滅させるという制度です。債権の場合は、10年間行使しないときは消滅する(民法167条)とされています。たとえば、個人間どうしの金銭の貸し借りの場合、その返済期日から10年が経過すれば、貸した人の貸金返還請求権は、時効が完成しますので、借りた人が時効を援用すると、貸した人は返還請求することができなくなってしまいます。

ただし、債権の種類によっては10年より短期の消滅時効が決められています。例えば、消費者金融などの業者から借入をした場合は、商事債権として時効は5年になります。

2 時効完成後にはどうしたらよいの?

では、時効が完成した場合にどう対応したらよいのでしょうか。

通常は時効の援用の通知を出すことが必要です。時効の援用とは、時効完成により利益を受ける者がその利益を受けようとする意思を示すことをいいます。「時効を援用します」と明確に意思表示すればよいだけなのですが、放っておけば当然に時効になり払わなくてよくなるというものではなく、時効の利益を受けますよという意思表示をしてはじめて、債権が消滅し支払義務がなくなるのです。

3 時効完成後に支払ってしまった場合は?

仮に、時効が完成していることを知らず、一部支払をしたり、支払する事を約束したらどうなるのでしょうか。

判例上、債務者が消滅時効完成後に債権者に対し、当該債務の承認をした場合には、時効完成の事実を知らなかったときでも、その後の時効を援用することは許されないと解するのが信義則に照らしても相当である(最高裁判所昭和41年4月20日大法廷判決)とされています。この判例からすると、時効完成後に、それを知らずに支払をした場合、後に時効の援用はできないと考えられます。

しかし、上記判例は、信義則に反することを理由として時効の援用を認めないとしていますので、個別の事情により、時効の援用が信義則に反しないとされることもあるのです。

実際、債権者側が、時効が完成していることを認識しながら、債務者を困惑させるような状況をつくり、その状況下で債務者がやむにやまれず一部返済をしたような場合は、その後に債務者の時効援用を認めた下級審判例もあります。(神戸地方裁判所平成27年9月9日、福岡簡易裁判所平成29年7月18日等)

当職が先日交渉した事案では、債権者から債権回収の委託を受けた業者が、債務者の身内に何度も連絡をして、身内から連絡を受けた債務者が業者と話した際に勤務先に知らせるなどと言われたため、困った債務者が一部弁済をしたというケースがありました。弁護士が間に入り、時効の援用を主張したところ、それが認められ、債権債務なしという確認書を交わして事件終了となりました。

業者側の対応もケースバイケースで、時効完成後に支払をした全ての事案において、時効援用が認められるとは限りません。もちろん、業者側としても、のちに債権者からあのときは何もわからずただただ困惑して払ってしまったと言われることを懸念して、配慮しながら請求しているケースもありますので、その場合は時効援用を認めてくれない場合もあります。ただし、業者側が非常にしつこく請求していたり、直接訪問してその場で一部支払させた場合などは、一部支払後の時効援用を認める可能性もあります。

時効援用が認められなくとも、支払可能な範囲で分割での支払い合意ができる場合もあります。困った場合は一度弁護士に相談することをお勧めします。

 

弁護士 諸隈 美波

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