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マタニティハラスメント

1 マタニティハラスメント(マタハラ)とは

マタニティハラスメントとは、妊娠・出産・育児休業・介護休業等をきっかけに、解雇や降格や配置転換などの不利益を与えることや精神的・肉体的な嫌がらせをして職場環境を害することを言います。

妊娠時期にこのような扱いを受けることで、健康を害し、流産早産につながってしまうこともあり、重大な結果を生じてしまうこともありえます。男性は仕事・女性は家事育児という性別役割分業意識や長時間労働を当然とする労働環境を背景として、どこの職場でも生じうる問題です。

事業主の行為のみならず、上司や同僚らによる言動もマタハラとなり、セクハラやパワハラと同様、マタハラをした上司や同僚も不法行為責任を問われることがあります。

2 マタハラに関する法規制

(1)不利益取扱の禁止

男女雇用機会均等法において、女性労働者が妊娠・出産、労基法65条の産前産後休業を請求・取得したこと、その他厚生労働省令で定める事由を理由に解雇その他不利益な取扱いをしてはならない(9条3項)とされています。禁止される不利益取扱いの例は、施行規則2条の2や均等法指針(平成18年厚労省告示614号)で示されています。解雇以外の不利益取扱としては、以下のようなものが挙げられています。

・有期労働者に対して、契約の更新をしないこと

・あらかじめ契約の更新回数の上限が示されている場合に、当該回数の上限を引き下げること

・降格させること

・業務に従事させない、もっぱら雑用に従事させる等職場環境を害すること

・減給、または賞与等において不利益な算定を行うこと

・昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと

・派遣労働者について派遣先が当該派遣労働者にかかる労働派遣の役務の提供を拒むこと

また、育介休法も、同様な不利益取扱の禁止を定めていますので、育児休業や介護休業の取得の申し出や取得を理由とする不利益取扱も禁止されています。

(2)妊娠・出産等を「契機として」不利益取扱が行われたこと

ところで、妊娠・出産の後に、なんらかの不利益取扱を受けたとしても、事業主側が「それは出産を理由としたものではなく、別の理由によるものです」などという主張がされることがあります。以前は、妊娠・出産等を「理由とする」ことを労働者側が証明しなければならず、その証明はとても難しいものでした。

しかし、女性労働者が妊娠後、軽易業務への転換に伴って降格され育休から復帰後も元の地位に戻されなかった事案において、最高裁は、妊娠中の軽易業務への転換を「契機として」降格処分を行った場合は、原則として均等法9条3項違反となると述べました。その上で、違反とならない例外的な場合についても厳格な要件を示しました。

この最高裁判決を受け、ほぼそのまま最高裁判決の示した基準を取り入れる形で均等法とともに育介法の解釈通達も改正されました。すなわち妊娠・出産育児休業等を「契機として」不利益取扱を行った場合は、均等法違反であり、例外は極めて厳格な要件のもとしか認められないという解釈が示されました。この「契機として」というのは、基本的に時間的に近接しているか否かで判断するものとしています。労働者側の立証のハードルが大幅に下げられたものと言えます。

(3)事業主のマタハラ「防止措置義務」

2016年3月の法改正により、事業主の「防止措置義務」が定められました(均等法11条の2、育介休法25条)。防止措置義務の具体的内容についても、通達により指針が出されています。

職場における妊娠・出産等に関するハラスメントを、上司または同僚から行われる①妊娠・出産に関する制度や措置の利用に関する言動により就業環境を害するもの②妊娠したこと、出産したことその他の妊娠または出産に関する言動により就業環境を害するものとして、それらを防止するための措置を講じなければならないとしています。

つまり、事業主は、事業主として不利益取扱をしないだけではなく、職場内で上司や同僚がマタニティハラスメントに該当する行為をしないように、対策を講じなければならないと定められたのです。

労働者として事業主に職場環境の改善を求める際に、これらの指針に基づいて、改善を要求しやすくなったといえるでしょう。

3 一人で悩まずにご相談ください

マタニティハラスメントは、妊娠期の不安定な時期の出来事であることもあり、泣き寝入りしがちな問題と言えます。ただ、上記のように法規制が少しずつ進んできている分野ではありますので、おかしいと思ったら会社の相談窓口に相談してみてください。(上記事業主の防止措置義務の中に、相談体制の整備が求められていますので、何等かの相談窓口が設けられているかもしれません)それでもだめなら外部の専門家に相談してみましょう。事案に応じて、働きやすい職場環境を求めて交渉したり、上司の言動について損害賠償したり是正を求めたりすることができるかもしれません。

弁護士 諸隈 美波

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