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同一労働同一賃金の原則シリーズ 1/2

1 法改正

(1)いわゆる「働き方改革関連法」による法改正

いわゆる「働き方改革関連法」(2018年(平成30年)[1]に成立)により、正社員と非正規労働者との不合理な待遇差の解消に関して、以下のような法改正等が行われました。

①短時間労働者に関する「パートタイム労働法」に有期雇用労働者も組み入れて、通称「パートタイム労働法」[2]は通称「パートタイム・有期雇用労働法」[3]に改称されました。

②不合理な待遇の相違の禁止については、労働契約法20条を削除した上、「パートタイム・有期雇用労働法」8条に一本化した上、条文上「不合理性」の判断の方法・基準が明文化されました。

③また、同法14条2項で、求めがあった場合の事業主の説明義務に待遇の相違の内容と理由の説明が加えられました。そして、説明の方法としては、労働者が内容を理解できるように「資料を活用し、口頭により説明する」ことが基本とされており[4]、待遇差について十分に説明しなかったという事実は、同法8条「その他」の事情に含まれ、不合理性を基礎づける事情として司法判断で考慮されます。[5]

(2)ガイドライン策定

「不合理性」の判断指針が「同一労働同一賃金のガイドライン」(平成30年12月28日厚労省告示430号)です。

待遇の相違が不合理かどうかについての考え方の原則と具体例等が示されています。

(3)点検・検討マニュアルとワークシートの作成。

厚労省は、待遇差別解消を進めるために「業界別不合理な待遇差別解消のための点検・検討マニュアル」を作成しました。

このマニュアルでは、各手当の正規と非正規の差違の有無、各手当の目的・趣旨・目的の記載、差違の理由説明を記載するワークシートに記入することで、既存の待遇差の不合理性の有無を点検・検討できるようになっています。

2 不合理な待遇の禁止(パートタイム・有期雇用労働法8条)

短時間・有期雇用労働者の待遇について、当該待遇に対応する通常の労働者との待遇の間において、当該待遇の性質・目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないとされています(パートタイム・有期雇用労働法8条)。

(1)禁止される「不合理な相違」の意義

下記取扱いが実現されていなければ、「不合理な相違」として本条違反となります。

①当該待遇の目的・性質にあたる事情が通常の労働者と同様にあてはまる短時間・有期労働者には同一の取扱いをする(均等待遇)。

②当該待遇の目的・性質にあたる事情があてはまるものの通常労働者との間に一定の相違が認められる短時間・有期雇用労働者にはその相違に応じた取扱いをする(均衡待遇)。

(2)「不合理性」の判断指針

「同一労働同一賃金ガイドライン」(平成30年12月28日厚労省告示430号)を要約した、同ガイドラインの概要によれば、「不合理性」の判断指針は以下のとおりです(括弧内は筆者)。

ア 基本給

労働者の能力又は経験に応じて支払うもの(いわゆる職能給)、業績又は成果に応じて支払うもの(いわゆる成果給)、勤続年数に応じて支払うもの(いわゆる勤続給)など、その趣旨・性格が様々である現実を認めた上で、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に自害がなければ同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。

昇給であって、勤続による能力の向上に応じて行うものについては、同一の能力の向上には、同一の、違いがあれば違いに応じた昇給を行わなければならない。

イ 賞与

会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献については同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。

ウ 各種手当

役職手当、特殊作業手当、特殊勤務手当、精皆勤手当、時間外労働・深夜休日労働手当の割増率、通勤手当・出張手当、食事手当、単身赴任手当、地域手当[6]については、同一の支給を行わなければならない。

エ 福利厚生・教育訓練

食堂、休憩室、更衣室といった福利厚生施設の利用、転勤者用社宅、慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給保障については、同一の利用・付与を行わなければならない。

病気休職については、無期短時間労働者は正社員と同一の、有期雇用労働者については契約終了までの期間を踏まえて同一の付与を、行わなければならない。

法定外の有給休暇その他の休暇であって、勤続年数に応じて認めているものについては、同一の勤続期間であれば同一の付与を行わなければならない。なお、勤続期間は更新の場合には当初の契約期間から通算する。

教育訓練であって、現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施するものにいては、同一の職務内容であれば同一の、違いがあれば違いに応じた実施を行わなければならない。

(3)2020年(令和2年)の5つの最高裁判例

不合理な待遇の禁止について、2020年(令和2年)に以下のような5つの最高裁判例が出されました[7]

①学校法人大阪医科薬科(旧大阪医科)大学事件(令和2年10月13日判決)

②日本郵便事件(令和2年10月13日判決、同10月15日判決)

③メトロコマース事件(令和2年10月13日判決)(退職金)

④長澤運輸事件(最高裁平成30年6月1日判決)

⑤ハマキョウレックス(差戻審)事件(最高裁平成30年6月1日)

ア いわゆる「正社員人材確保」論

これらの判例では、諸手当が問題とされた場合には、その趣旨・目的が非正規社員にもあてはまるかという観点から判断されています。

これに対して、賞与や退職金が問題となった①と③の判例では、いわゆる「正社員人材確保」論[8]が考慮された上で、不支給という待遇差を不合理ではないと判断されました。

イ 「同一労働同一賃金ガイドライン」

なお、先述した「同一労働同一賃金ガイドライン」(平成30年12月28日厚労省告示430号)では、通常の労働者と基本給、賞与、各種手当等賃金に相違がある場合において、その要因として、賃金の決定基準・ルールの相違があるときは、「将来の役割期待が異なるため、賃金の決定基準・ルールが異なる」等の主観的・抽象的な説明では足りず、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものの客観的及び具体的な実態に照らして、不合理と認められるものであってはならない旨述べられています(下線は筆者)。

(4)定年後継続雇用者の場合

定年後継続雇用の場合であっても、法8条の適用は否定されず、不合理な差別待遇は禁止されます。

但し、「不合理性」を判断する際に定年後継続雇用であることが「その他の事情」として総合考慮されます。

この点、長澤運輸事件判決(最高裁平成30年6月1日判決)は、定年後継続雇用であることは、長期雇用は通常予定されておらず、定年までは正社員として処遇され、定年後は老齢厚生年金の支給を受けることも予定されていることから、「その他の事情」として考慮されうるとの判断を示しました。

 

(シリーズ2/2に続く)

[1] 平成30年(2018年)改正法の施行は基本的には平成31(2019)年4月からである。但し、不合理な待遇の相違の禁止(8条)の施行は、大企業が2020年(令和2年)4月から、中小企業が2021年(令和3年)4月からである(改正附則1条、11条)。

[2] 正式名称は「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」。

[3] 正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」。

[4] 平成30年12月28日厚労省告示第三の二

[5] 国会会議録第196回国会(20)衆議院厚生労働委員会第22号9頁 平成30年5月23日衆議院厚生労働委員会加藤勝信厚生労働大臣答弁)

[6] 但し、各手当の支給要件等具体的な内容については、ガイドラインを参照。

[7] なお、改正前の旧労働契約法20条の判断であり、改正後も判例の考え方や判断がそのまま引き継がれるかは別途問題になります。

[8] 「このいわゆる『正社員人材確保』論は、長期的に人材を育成し活用するための人材活用の仕組み(職能給、広域異動、等級・役職制度等)という実態に基づいて判断がなされている点で、従来の裁判例でみられた抽象的・主観的な『有為人材』論とは性質が異なるものといえよう。」(「詳解労働法第二版」水町勇一郎教授・370頁)

弁護士 吉武 みゆき

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