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賃金支払いの原則

1 賃金

賃金とは,使用者(雇用者)が労働者に労働の対象として支払うものです。そのような性質を持つものであれば名称は問いません。

賞与などの一時金は,使用者の自由な裁量で支払われるものであれば賃金性が認められませんが,就業規則や労働契約,労働協約などに支給時期および金額,計算方法が定められている場合には賃金性が認められます。もっとも,実際には規則などに賞与に関する記載があるものの支給基準が不明瞭な場合があり,賃金性が争われることもあります。

退職金も,賞与とほぼ同様に,使用者の自由な裁量で支払われるものであれば賃金性が認められませんが,就業規則や労働契約,労働協約などに支給時期および金額,計算方法が定められている場合には賃金性が認められます。

 

2 賃金の支払いに関する諸原則

賃金は通貨で支払う義務があります(労基法24条1項)。生活財(食糧など)による現物給与は禁止されます。

また,賃金は労働者に直接支払わなければならず(労基法24条1項),法定代理人(労働者の親権者など)や賃金債権の譲受人への支払いは禁止されています。

賃金は原則として全額を支払わなければなりません(労基法24条1項)。例外的に給与所得税の源泉徴収・社会保険料の控除・財形貯蓄金の控除などは許されます。したがって,労働者に対して使用者が持つ損害賠償請求権と賃金債権との相殺は認められません。

賃金は毎月1回以上,一定の期日を定めて支払わなければなりません。ただし,臨時に追加支給される賃金,賞与などは,この原則の例外にあたる場合があります。

 

3 賃金額の切り下げ

労働条件の変更は使用者と労働者の合意によらなければなりません(労基法8条)。

合意によらず一方的に切り下げられた場合,従前の賃金額を請求できます。一見して切り下げについて合意があるように見える場合でも,労働者の側の意思表示に瑕疵(かし)がある場合(詐欺,脅迫,錯誤)や,自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しない場合には,切り下げ合意の効力が生じない余地もあります。例として,切り下げの具体的内容を記載していない白紙の同意書を労働者に提出させたような場合があります。

使用者から一方的な切り下げを受けた後,異議を述べずに就労していると,裁判等において切り下げに黙示的に同意したと認定される場合もあるのでご注意下さい。

 

4 退職時の賃金の清算

使用者は,労働者が退職にあたり請求した場合,その請求から7日以内に賃金,積立金,財形貯蓄,その他の名称を問わず労働者の権利に属する金品を返還しなければなりません(労基法23条)。

弁護士 天久 泰

 

 

 

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