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遺留分侵害額請求権の行使方法

1 基本的な枠組み

⑴ 改正前

改正前民法においては、遺留分を侵害された相続人が行使する権利は、「遺留分減殺請求権」とされ、同権利の行使により、その限度で遺留分侵害行為(贈与、遺贈)の効力は消滅し、目的物上の権利は当然に遺留分権利者に復帰すると考えられていました(形成権=物権説)。そのため、贈与や遺贈が履行されていない場合には履行を拒絶することができ、履行済みの場合には目的物の返還請求を行うことができました。

なお、例外的に、目的物の返還請求を受けた者が、目的物の価額を弁償することによって目的物返還義務を免れることができると規定されていました。

⑵ 改正後

上述のとおり、物権的効果を生じさせる遺留分減殺請求権とは異なり、改正民法においては、遺留分侵害額請求の意思表示により、遺留分侵害額に相当する金銭の給付を目的とする金銭債権が発生するものとされました(民法1046条1項)。そして、遺留分に関する権利行使について、遺留分侵害額請求権の行使と定義されました(同項、1048条)。

また、遺留分侵害額請求を受けた者がすぐに金銭を準備できない場合、同人は、裁判所に対して、金銭債務の全部又は一部の支払いにつき相当の期限の許与を求めることができるとされました(民法1047条5項)。

2 遺留分侵害額請求権の行使主体

遺留分侵害額請求権を行使できる者は、遺留分権利者(きょうだいを除く法定相続人)とその承継人です。

この承継人には、遺留分権利者の包括承継人である相続人や包括受遺者だけではなく、特定承継人も含まれます。

3 相手方

遺留分侵害額請求権を行使する相手方は、受遺者や受贈者に加え、その包括承継人も含まれます。

4 遺留分侵害額請求権の行使方法

⑴ 意思表示

遺留分侵害額請求権も形成権であるため、受遺者・受贈者に対する意思表示の方法によって行使されることになります。この意思表示により、遺留分権利者の、受遺者などに対する金銭債権が発生することになります。

なお、この意思表示の際に、遺留分侵害額を具体的に示す必要はありません。

⑵ 訴えの要否

遺留分侵害額請求権の行使も、同権利の行使により生ずる相手方に対する金銭の給付を求める権利の行使も、いずれも訴えの方法による必要はありません。

なお、改正前民法下の判例ですが、遺留分減殺請求権について、同権利が行使上の一身専属性を有することを理由に、債権者による代位行使(債権者が債務者の有する権利を債務者に代わって行使すること。)を否定しています。

5 行使期間の制限

⑴ 遺留分侵害額請求権

「遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。」と規定されています(民法1048条前段)。

なお、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」とは、相続の開始と遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知るだけではなく、贈与や遺贈が遺留分額を侵害することを知ることが必要とされています。

また、遺留分侵害額請求権は、相続開始から10年を経過すれば消滅します(1048条後段、除斥期間)。

⑵ 金銭給付請求権

遺留分侵害額請求権の行使により生じる金銭給付請求権は、通常の金銭債権と同様に5年の消滅時効にかかることになります。そのため、遺留分侵害額請求権の行使から5年以内に行使しなければならないことになります(債権法改正の施行前においては10年間の消滅時効にかかります)。

6 最後に

遺留分侵害額請求権の行使には期間制限が設けられていることに加え、遺留分侵害額の算定には専門的知識が必要となります。

そこで、遺留分の侵害が疑われる場合には、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

以 上

弁護士 上野 直生

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