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パワハラに関する法規制

1 パワハラに関する法規制

「パワハラ」という言葉はすでに一般的になっているように思われますが、実は法律上、明確に定義や禁止規定があるわけではありません。セクシャルハラスメントやマタニティハラスメントについては、男女雇用機会均等法において措置義務等が定められていましたが、パワハラについては、厚労省が職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキンググループ報告において、いわゆるパワハラの6類型を整理したにとどまっていました。

しかし、各所の労働相談においても、「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は、年々増加しています。深刻な社会問題となっていることを受けて、検討が進められ、2019年の通常国会において、労働施策総合推進法(以下、改正法と言います。)が改正されました。改正法では、パワハラを防止するための雇用管理上必要な措置を講じることを使用者に義務付けること(措置義務)等が盛り込まれました。

2 措置義務

パワハラについて、使用者は「労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他雇用管理上必要な措置」を講じなければなりません。そして、措置義務の実効性を担保するために、労働者がパワハラに関する相談を行ったこと、または事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇・その他不利益な取扱いをしてはならないと定めています。この措置義務あるいは不利益取扱の禁止に違反している事業主に対し、勧告を行ってもなお、これに従わない場合には、厚労大臣はその旨を公表できることになっています。

3 パワハラの定義

改正法では、パワハラを①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること、③それにより雇用する労働者の週魚油環境が害されることという3つの要件を備えたものであるとしています。

ただし、これらの要件については抽象的であるため、労働政策審議会雇用環境・均等分科会における議論を経て、定義を具体化する指針が策定されることになっています。

改正法に付された付帯決議(議決された法案・予算案に関して付される、施行についての意見や希望などを表明する決議のこと)では、定義に関していくつかの注意点が挙げられています。

①優越的地位について

必ずしも上司と部下という上下関係だけではなく、同僚や部下からのハラスメントもパワハラに該当しうることを、附帯決議においても確認されています。

②労働者の主観にも配慮

パワハラの判断に際して、「平均的な労働者の感じ方」を基準としつつも、労働者の主観にも配慮することを指針に明記するように求めています。

③SOGIハラ、アウティング

性的指向・性自認に関するハラスメント(SOGIハラ)やアウティング(他人の性的指向・性自認に関する事情を勝手に第三者に言いふらすこと)も措置義務の対象となりうると指摘しています。職場におけるあらゆる差別をなくすため、性的指向・性自認に関するハラスメント及び性的指向・性自認の望まぬ暴露であるいわゆるアウティングも雇用管理上の措置の対象になりうること、そのためアウティングを念頭に置いてプライバシー保護を講ずることを明記するよう求めています。

④第三者ハラスメント等への対応

事業主が「雇用する労働者」ではない、例えば就活生やインターン生等に対するパワハラについては、改正法の直接の対象とはなっていません。また取引先や顧客からの第三者ハラスメントについては、改正法の措置義務の対象となるかは不明確です。これに関連して附帯決議では下記のような対応を求めています。

ア 自社の労働者が取引先、顧客等の第三者から受けたハラスメント及び自社労働者が取引先、就職活動中の学生等に対して行ったハラスメントも雇用管理上の配慮が求められることを明記すること

イ 悪質クレームをはじめとした顧客からの迷惑行為等に関する実体も踏まえ、その防止に向けた必要な措置を講ずること。また訪問介護、訪問看護等の介護現場や医療現場におけるハラスメントについてもその対応策について具体的に検討すること

ウ フリーランス、就職活動中の学生、教育実習生等に対するハラスメントを防止するため、男女雇用機会均等法等に基づく指針等で必要な対策を講じること

4 改正法の今後

当該改正法については、大企業は2020年6月から、中小企業は2022年4月から施行されます。

法の実効性については、指針にかかっており、まだまだ不透明な部分はあります。しかし、働きやすい職場環境を求めるのは、労働者の権利でもあります(権利性が明確に謳われていないことは、法律の課題の一つです)。その権利が実現されるように、今後の指針の策定過程を注目し、労働者の側に立った意見を述べていき、法が真に労働者の権利に資するものになるようにしていかねばなりません。また、法施行後に、パワハラに対する争い方がこれまでと大きく異なってくるということはないと思われますが、個別事件においても今回の改正法の趣旨や、付帯決議で求められている内容をおおいに生かしながら訴訟活動、弁護活動していき、労働者にとって働きやすい環境の実現をもとめて活動していく必要があるといえそうです。

 

弁護士 諸隈 美波

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