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相続の基礎知識

相続とは,人が死亡したときに,その財産や権利について,誰がどのように受け継ぐのかという問題です。民法には相続人に関するルールが書かれています。

1 基礎的な用語

まず,相続に関する基礎的な用語をご説明します。

(1) 被相続人

死亡し,相続される人のことです。

(2) 相続人・共同相続人

被相続人を相続する人のことを相続人,複数いる場合はまとめて共同相続人といいます。なお,将来相続が開始すれば相続人となる可能性のある人のことを,推定相続人といいます。

(3) 遺言

被相続人が,生前,死亡の時に効力を生じさせることを目的に行う意思表示をいいます。民法では,遺言の方法が厳しく定められ,これを守る必要があります。

(4) 遺贈

遺言によって相続財産を他人に譲渡することをいいます。

2 相続の役割

相続制度の果たす役割は以下のようにまとめられます。

① 遺族の生活の保障

被相続人の遺産を相続人が受け継ぐことで,相続人の生活が不安定になることを防ぐことが期待できます。

② 法律関係の安定

被相続人に対して金銭や物を貸している人がいるような場合など,被相続人をめぐる法律関係が安定するよう,相続人との関係で権利関係を継続させる役割があります。

③ 財産関係の清算

例えば,夫が死亡した場合に,妻に夫の生前にいわゆる「内助の功」があった場合,それを相続の処理の中である程度考慮して,清算する役割が認められます。

 

第2 相続人の範囲について

1 相続人の範囲

相続人の範囲は民法で決められています。基本的には被相続人の子,直系尊属,兄弟姉妹,配偶者が相続人となりますが(民法900条),それ以外の方にも例外的に相続人となる場合があります。相続人が複数いる場合は,優先順位の問題も生じます。また,相続人の立場を否定される場合もあります。具体的にご説明しましょう。

 

(1) 子

被相続人の子は第1順位の相続人です。相続については,相続開始時(被相続人の死亡時)に相続人が存在していなければならないのが原則ですが,例外的に,胎児(出産前の子)にも相続権が認められます(886条1項)。ただし,出生することが必要です(886条2項)。

(2) 直系尊属・兄弟姉妹

第1順位の相続人である子がいないときは,直系尊属(親,祖父母など)が第2順位,直系尊属もいないときには,兄弟姉妹が第3順位の相続人となります。

(3) 配偶者

被相続人の配偶者(夫,妻)は,常に相続人となります。子,直系尊属,兄弟姉妹が相続人となる場合,配偶者はそれらの方と同順位になります(890条)。

(4) 代襲相続

例えば,祖父Aの死亡時,仮にその子Bが死亡していても,Bの子であるCが代襲相続人となり,相続が認められます(再代襲,887条2項)。Bの子がC,Dと2名いた場合はBの相続分を2名で分けることになります。BのほかCもすでに死亡していた場合は,Cの子であるEも代襲相続人になります(再代襲と言います。)。なお,被相続人の兄弟姉妹の子(甥や姪)にも代襲相続が認められますが,再代襲は認められません。

 

2 相続人の欠格,排除

民法には相続人になることができない場合(欠格),家庭裁判所への請求により相続を否定される場合(排除)が定められています。

(1) 相続人の欠格(891条)

以下の場合にあてはまる者は,相続人になることができません。

 

①被相続人を殺害(殺人未遂含む)しようとした場合で,実刑判決を受けた者

②被相続人が殺害されたことを知って告発せず,または告訴しなかった者

③詐欺または強迫により,被相続人が遺言をすること,これを取り消すこと,またはこれを変更することを妨げた者

④詐欺または強迫により,被相続人に遺言をさせ,これを取り消させ,またはこれを変更させた者

⑤被相続人の遺言書を偽造,変造,破棄,隠匿した者

 

(2) 相続人の廃除(892,893条)

以下の場合にあてはまる推定相続人について,被相続人は,家庭裁判所への請求,または遺言により,相続関係から排除することができます。遺言による場合は,相続開始後,遺言執行者が家庭裁判所へ廃除の請求をします。

 

①被相続人に対して虐待したこと

②被相続人に対して重大な侮辱をしたこと

③虐待,重大な侮辱以外に著しい非行があったこと

 

③については,例えば養親である推定相続人の虚偽の住民異動届出を行い,養親に無断でその所有不動産を売却・移転登記したことにより有罪判決を受けた場合などが挙げられます(東京家裁昭和50年3月13日審判)。

 

第3 相続分について

相続人の順位により,また,同順位の相続人の人数により,具体的な相続分が決まります。

1 第1順位の相続人の相続分(900条1号,4号)

以下のルールに従って,相続人の相続分が決まります。

・配偶者と子がいる場合,2分の1ずつ。

・子が複数人の場合,子の相続分は皆等しくなります。

例:配偶者(A),子が3人(B,C,D)の場合

Aは2分の1  B,C,Dは6分の1ずつ

2 第2順位の相続人の相続分(900条2号,4号)

第1順位の相続人がいないときに,第2順位の相続人は被相続人の直系尊属(父母,祖父母など)になります(889条1項1号)。

・配偶者と直系尊属がいる場合,相続分は3分の2と3分の1になります。

・直系尊属は,親等の近い者が優先し,親等が同じ者が複数人の場合,相続分は等しくなります。

3 第3順位の相続人の相続分

第1順位,第2順位の想像人がいないときは,第3順位の相続人は,被相続人の兄弟姉妹になります(889条1項2号)。

・配偶者と兄弟姉妹がいる場合,相続分は4分の3と4分の1になります。

・父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1になります。

※被相続人に,父母を同じくする兄A,父母が異なる(例えば父の後妻との子)弟Bがいた場合,Bの相続分はAの2分の1になります。

4 代襲相続人の相続分

代襲相続人の相続分は,被代襲者が代襲事由(相続開始前の死亡,相続欠格,相続人廃除)に該当しなければ受けられたものになります。代襲相続人が複数いる場合などは,すでに説明したルールに従います。

5 指定相続分

法律で定められた相続分(法定相続分)は,被相続人の遺言による指定で変更できます。ただし,遺留分に関する規定に反することはできません。

6 特別受益

法律で定められた相続分(法定相続分)は,特別受益により修正されます。

特別受益とは,共同相続人が被相続人から生前に贈与などを受け,あるいは遺言による贈与(遺贈)を受けた場合であり,特別受益の分を控除して相続分が決められます。

具体的には,被相続人が相続開始時に持っていた財産の価額に,その贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし(みなし相続財産),一般的な相続のルール(900条から902条)に従って算定した相続分から,贈与の価額を控除した残額を,特別受益者の具体的相続分とします(903条1項)。

ただし,被相続人は以上のような特別受益者の相続分からの控除を認めないという意思表示も可能です(903条3項,持戻し免除)。

例:被相続人の生前に3人いる子(A,B,C)のうちの1人であるAが,被相続人から300万円の贈与を受け,相続開始時の被相続人の財産価額が1200万円であった場合,みなし相続財産は1500万円(1200万円+300万円)となります。Aは,本来法定相続分(3分の1)に従って500万円(1500万円×3分の1)を受け取るべきですが,特別受益として300万円を得ているため,その具体的相続分は200万円となります(B,Cはそれぞれ500万円を受け取る。)。

7 生命保険金の特別受益該当性

生命保険は,受取人に帰属し,相続されるものではありませんが,特別の事情がある場合には特別受益に準じて取り扱われるとする最高裁判所の判例があります(平成16年10月29日判決)。

8 寄与分

寄与分とは,相続財産の中に,共同相続人の特別の協力により維持され,または増加した財産をいいます。例えば,被相続人が生前農業をしており,その配偶者が長年にわたり協力していた場合などです。寄与分は相続人にのみ認められます。

寄与分は,協議により決めることができますが,協議が調わない場合は家庭裁判所の調停・審判で決定することになります。具体的には,遺産分割調停手続の中で,寄与分を主張します。

調停手続が審判手続に移行すると,家庭裁判所は,寄与の時期,方法,程度,相続財産の額,その他一切の事情を考慮して寄与分を決めます(904条の2第2項)。

 

弁護士 天久 泰

 

 

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