辞職について
1 相談内容
X社に無期雇用で勤務するAさんは、数年前から転職を考えていました。タイミング良くZ社からの誘いを受けたため、半年後に同社で働くことになりました。Aさんは、上司に半年後には退職したい旨を伝えたところ、「退職は認めない、退職届も受け取らない」と言われています。Aさんは、X社を辞めることはできるのでしょうか。
2 辞職の自由
(1)はじめに
辞職とは、一般的にも使われている言葉ではありますが、労働者による労働契約の解約(退職)を言います。
使用者による一方的な労働契約の解約は、労働契約法、労働基準法の制約を受けますが、労働者による辞職は、原則として自由であり、使用者の承諾を必要としません。これは、職業選択の自由や奴隷的拘束を禁じた憲法上の帰結でもあります。
但し、辞職をしようとする労働者は、労働契約の内容によって次のとおり注意を要します。
(2)期間の定めのない労働契約について
期間を定めずにした労働契約において、労働者が辞職するためには、合理的な理由は必要ありませんが、原則として2週間前に予告をすることが必要です(民法627条1項)。なお、2週間の予告期間を置かずに突然に退職をして、会社に損害を与えた場合には損害賠償が認められる場合もあります(ケインズインターナショナル事件―東京地裁平成4年9月30日判決)。
(3)期間の定めのある労働契約について
期間を定めた労働契約の場合、「やむを得ない事由」があるときにのみ直ちに解約ができます。その事由が当事者一方の故意・過失によって生じた損害については賠償責任を負う可能性があります(民法628条)。
(4)まとめ
辞職の意思表示は、使用者に到達した時点で解約告知としての効力を生じます。
以上より、Aさんは、(職業安定法に違反しない限り)X社を辞職し、Z社に転職をすることができるでしょう。また、Aさんは、退職についての証明書を請求し、X社から交付を受けることができます(労働基準法22条1項)。
3 さいごに
社会の中で実際に生じる紛争は、今回ご紹介した事案よりも、より複雑なものばかりです。労働に関する悩みを抱えられている方は、気軽に弁護士等の専門家にご相談ください。
(ぱーとなー原稿 「暮らしの法律相談」より転載)
関連記事はこちら
- 解決事例
- 会社が一切の指導等をせずに危険な業務に従事させ,事故が発生した場合の責任
- 雇用主からの損害賠償請求
- 20年以上の勤務、更新を繰り返してきた契約社員の雇い止め
- 労働者の中途退職が債務不履行として、使用者が損害賠償を請求した事案
- 有期雇用の80代清掃業の女性が契約期間中に退職届の提出を執拗に迫られたが、弁護士が間に入り交渉し、双方合意できる内容で解決した事案
- 建設業勤務の40代男性が退職を認めてもらえず特定退職金の手続も拒否された件で弁護士が介入し迅速に解決できた事案
- 30代卸売業の正社員男性が管理監督者を理由に残業代を支払われなかったことを裁判で争い440万円を支払われた事案
- 30代営業職の依頼者が上司からのパワハラと金銭に関する非違行為に関して会社及び上司に対する責任追及を進めた事案
- 廃棄物処理の業務に携わる中で石綿粉じんにばく露し、退職後に石綿関連疾患を発症したが公務災害申請が棄却され、審査請求で公務外認定の取消しを勝ち取った事案
- 20代女性トリマーが経営者に対して残業、休日労働、深夜労働分の割増賃金の立証を行い140万円の請求を実現した事案
- 運輸業の50代正規社員の男性が会社から不当な懲戒処分を受けた件で、裁判により懲戒処分無効を勝ち取った事案
- 接客業の40代パートの女性が突然の解雇を言い渡されたが納得できず、労働審判を申し立て認められた事案
- 30代トラック運転手の残業代請求について証拠保全を裁判所に申し立て300万円を獲得した事案
- 元会社役員が役員として務めていた期間の未払い役員報酬の支払いについて約430万円の支払いを示談で解決した事案
- 40代男性のトラックドライバーが仕事中に交通事故にあい、後遺障害部分も含め300万円の賠償で解決した事案
- 介護施設で正職員として働く女性が突然解雇され、労働基準監督署で弁護士に相談することを勧められ、結果解決金を支払って解決した事例
- ホテル業のリネン係が休憩仮眠時間分の時間外労働手当を請求し認められた事案
- 上司からのパワハラにより適応障害を発症した男性が未払い残業代分を含めて約30万円で和解した事案
- 50代事務職の女性が会社からの退職勧奨に対して、双方の弁護士同士で話し合い、退職金や会社都合の退職といった依頼者にとって好条件を引き出し解決した事案
- 40代飲食業勤務の男性が長時間勤務分の残業代を求めて労働審判で解決した事案
- 看護師長からのパワハラで適応障害を発症した40代看護師が裁判でハラスメントを認めさせた事案
- 執拗な退職勧奨やその過程で会社側からなされた発言によって人格を毀損されたことに対して損害賠償請求を行い2ヶ月で100万円超の解決金を得た事案
- 当初粗職場復帰を求めて横領を理由とした懲戒解雇の有効性を争い、解雇は無効と判断されたが、依頼者は係争中に復帰意欲を失い退職と引き換えに解決金を支払わせて集結した事案
- 運転手(正社員)の男性が不当解雇を訴え、和解交渉を行い未払賃金、未払残業代、解雇予告手当全額の解決金の支払いを受け合意退職した事案
- 労働問題~弁護士に依頼するメリット~
- 採用・退職、労働条件 の変更等のタイミング でお困りの方へ
- アスベスト
- 不当解雇された方へ・解雇の種類
- 未払い割増賃金の請求
- 会社に労災申請を拒否されたら
- 労災について会社の責任を問いたい方へ
- ハラスメント被害(パワハラ,セクハラ)に遭われた方へ
- 会社が倒産した方へ
- 労働をめぐるトラブルについて
- 労働審判により紛争の早期解決を