請求を受けてもすぐ支払ってはダメ! - 債務の承認 と 時効利益の放棄
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消滅時効について,先日当ホームページで詳しくご紹介しました。
関連して,実際に貸主から支払うようにと連絡を受けた場合,注意しなければならないことがあります。
それは債務の「承認」による時効の中断です(民法147条3号)。
債務の「承認」とは,債務が存在することを認める言動の一切を言います。
例えば,借金の一部を貸主に支払う行為があります。一部でも支払うと時効が中断し,さらにそのときから5年ないし10年の経過が必要となります。それまでの時間の経過が無意味になるのです。
債務の「承認」は時効の進行期間中にあることです。それでは5年ないし10年が経過した後に,その経過を知りながら借金の一部を支払ってしまったときはどのようになるでしょうか。
この場合は債務の「承認」にはあたりませんが,消滅時効によるメリットを自ら放棄したと取り扱われ,消滅時効を主張することができなくなります。これを時効利益の放棄と言います。
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実際の事例をご紹介します。
ある日,貸主から借主に対し,「だいぶ前にあなたが借りた借金の元本が5万円ある。この口座へまず1万円だけ支払って欲しい。あとは分割でよいから。」と電話連絡がありました。借主は,5年以上が経ち,時効を主張できると気付きましたが,1万円ずつで5万円の分割払いなら支払ってもよいかと考え,初回の1万円を支払いました。
しかし,その後に貸主から,「元本のほかにも遅延損害金が50万円あるからそれも支払って欲しい。」と言われました。実務の取扱いからは1万円の支払が「時効利益の放棄」にあたり,時効主張が非常に難しくなってしまったというケースです。
債務の総額をきちんと確認せずに一部でも支払うと,消滅時効の主張ができなくなり困ってしまうケースがあるのです。
貸主からの請求を受けた場合は,まずは弁護士に相談することをおすすめします。債務の総額を確認する方法のほか様々な可能性も含めて,専門的なアドバイスを受けることが大切です。