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賃貸家屋の退去時のトラブル!

30年近く住んできた借家を退去して施設に入居することになった。入居時に敷金などを納めたこともなく、家賃も月3万5000円と低額だった。退去するに当たって、大家さんから「原状回復費用」として30万円請求された。支払わないといけないのだろうか。

 

 

1 原状回復とは?

賃借して居住していた家を賃貸人(大家さん)に返還する場合、賃借人(借主)は原状回復義務を負います(民法616条・598条)。

原状回復とは「借りたときの状態(原状)に戻す(回復)」ということです。

30年近く住んでいたのであれば、壁や床などの汚れがあるでしょうし、不注意で壁に穴を開けたりしているかもしれません。また、入居した後で取り付けた物(クーラーや照明器具など)もあるでしょう。

こういった汚れをきれいにし、壁を修復し、取り付けた物を取り外すことが原状回復です。

では、本件のような場合にも原状回復費用の支払義務があるのでしょうか。

 

2 賃貸人が修繕義務を負うこととの関係

法律上、借家の修繕義務を負うのは賃貸人と定められています(民法606条)。

そのため、家を使用すれば通常生じる汚れや痛みについては(「通常損耗」と言います。)、賃貸人が原状回復義務を負うこととされています。

この点に関連して、判例は、「賃借人が社会通念上通常の使用をした場合に生ずる賃借物件の劣化又は価値の減少を意味する通常損耗に係る投下資本の減価の回収は、通常、減価償却費や修繕費等の必要経費分を賃料の中に含ませてその支払を受けることにより行われている。」と述べています(最判平成17年12月16日)。

一方で、「通常損耗」とは言えない、不注意による借家の損傷については、賃借人が原状回復義務を負うことになります。

 

3 契約書をまず確認!

ただし、先ほど触れた判例は、通常損耗であっても次の①若しくは②の場合には例外的に賃借人が補修費用を負担することになることも認めています(「通常損耗補修特約」)。

①通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されている場合

②仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められる場合

原状回復の場面でもまずは契約書を確認することが重要です。

契約書を作成していない場合は、あとで作成することも可能です。

契約書を紛失した場合は、大家さんや仲介業者から写しをもらうようにして確認しておいてはどうでしょうか。

 

4 まとめ

本件の場合、まずは原状回復費用の中身を確認する必要があります。

「通常損耗」に該当する場合は、契約書の内容を確認して3で述べた例外に当たらなければ、賃借人が負担する義務はありません。

「通常損耗」に該当するかどうかよく分からない、契約書の不明点などがあれば、専門家である弁護士に相談してみられることをお勧めします。

 

弁護士 池上 遊

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