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労働~出張の際の移動時間について(実労働時間と休憩時間の区別基準)

Q 出張その際の移動時間は実労働時間に含まれるでしょうか。また、フェリーに乗船中荷積み中のトラックを駐車スペースに置いて離れている時間は休憩時間にあたるでしょうか。

A 次のとおり指揮命令から現実に解放されているといえるかどうかによります。詳しくは弁護士にご相談下さい。

 

1 実働労時間と休憩時間の区別基準

実労働時間は、労働者が「指揮命令かに置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まる」(最高裁平成2年3月9日判決、三菱重工業長崎造船所事件)とされています。

そして、労働者が指揮命令下に置かれていたかどうかについては、最高裁平成14年2月28日判決(大星ビル管理事件)によれば、「当該時間に労働者が労働から離れることを保証されていて初めて、労働者が使用者の指揮下に置かれていないものと評価できる」とされています。

この点、労基法34条1項・3項の「休憩時間」は、指揮命令から解放されることが保証される時間であり、労働者が自由に利用できるので、実労働時間ではないとされています。

したがって、指揮命令から現実に解放されていなければ実動労時間であって休憩時間とはいえません。

2 行政通達

昭和23年3月17日基発461号、昭和33年2月13日基発90号には、「出張中の休日はその日に旅行する等の場合であっても、旅行中における物品の監視等別段の指示がある場合の外は休日労働として取り扱わなくても差し支えない」とあります。

この例外規定に鑑みれば、出張の目的が物品の運搬であり、旅行中その物品の監視をしなければならないなど出張の移動そのものが業務性を有する場合には、実労働時間性が肯定されるといえます。

3 判例

出張の際の移動時間について実労働時間性の有無について判断した判例としては以下のようなものがあります。

(1)横川電機事件(東京地裁平成6年9月27日判決 労働判例660号)

国外出張の移動時間について、労働拘束性が低いことを理由に、実労働時間性を否定しました。

(2)ロア・アドバタイジング事件(東京地裁平成24年7月27日判決労働判例1059号)

「その「労基法上の労働時間」に該当するか否かの判断は、〈1〉当該業務提供の有無、〈2〉労働契約上の義務付けの有無、〈3〉場所的・時間的拘束性(労務の提供が一定の場所で行うことを余儀なくされ、かつ時間を自由に利用できない状態)の有無・程度を総合考慮した上、社会通念に照らし、客観的にみて、当該労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かという観点から行われるべきものである。」と述べて判断基準を立てた上で、納品物の運搬それ自体を出張の目的としている場合には労働時間に該当するが、そうではない場合には該当しない(「移動中、果たすべき別段の用務を命じられていた形跡はうかがわれず、他に、具体的な労務に従事していたことを認めるに足る証拠はない」)としました。

(3)立正運送事件(大阪地裁昭和58年8月30日労働判例416号)

長距離トラックの運転手がフェリーを利用した場合に、積み荷は劇薬で一人乗務体制のため車両・積み荷の保管管理責任がありましたが、フェリー乗船時間は以下のとおり休憩時間と認定しました。

「車両の積み卸しはすべて船長らの指示に従うこととされ、船内では、車両は乗客と区別された車両甲板に置かれ、航行中は、盗難と火災の予防の為、運転者といえど、車両甲板に居残りや立入りを禁止されており、車両甲板で運転者が監視するような例はなく、このような取扱は、本件当時から変わりないこと、同航路のフェリー船内には、客室が整備されていて、運転者が、航行中仮眠することも、十分可能であること、以上の事実が認められ、これを左右するに足る証拠はない。 右事実によれば、右和歌山・小松島間のフェリー船内では、車両積荷は、船長が責任を持って保管し、原告ら運転者は、車両の監視を要せず、一定の設備のある客室で自由にすることができた、といえるから、下船準備の為に要すると、被告の認めている一〇分間を除く同フェリー航行時間中の時間は、原告ら車両運転者にとっては休憩時間であった」

なお「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(労働弁護団)87頁によれば、「行政解釈には、長距離トラックの運転手がフェリーを利用する場合に乗船す時間が労働時間に該当するかどうかについては、船内を自由に行動できるのであれば労働時間として取り扱わなくてよいとするものがある(厚生労働省・労働基準局編「平成22年版・労働基準法(上)」402頁)」とのことです。

以上

弁護士 吉武 みゆき

 

 

 

 

 

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