遺産の範囲 ~遺産に含まれない財産~
1 はじめに
相続が発生した場合に,いかなる財産を遺産分割の対象とすべきかについて判断に迷われるものがあると思われます。
本稿では,遺産の範囲(特に遺産に含まれない財産)について説明します。
2 一身専属的な権利
原則として,相続が開始した場合に,被相続人の財産に属した一切の権利義務は相続人がすべて承継することとなります(民法896条)。
しかし,相続人の権利義務であっても,一身専属権は相続されないこととされています。
一身専属権とは,個人の人格や才能、あるいは個人としての法的地位などとの間に密接不可分の関係にあるために、他人による権利行使を認めることが不適切な権利義務のことを言い,扶養請求権、離婚請求権、認知請求権,代理権(民法111条参照),雇用契約上の地位(民法625条参照),生活保護や各種年金受給権等が挙げられます。
ただし,一定額の給付請求権として内容が確定して具体化している場合には,通常の金銭債権と変わりは無いとして相続可能となると判断した裁判例があります(東京高判平成20年6月25日)。
3 祭祀財産
祭祀財産とは,墓地、墓地の使用権、墓石、墓碑、位牌、仏壇、仏具、神棚、十字架等のことを指し,これは相続とは違う形で承継されることとなります。
つまり,これらの財産は,祖先の祭祀の主宰者に帰属するとされています(民法897条)。
祭祀承継者は,亡くなった(被相続人)の指定又は慣習で決まり,争いがある場合には家庭裁判所の調停・審判で決されることとなります。
また,遺体,遺骨の所有権も,祭祀財産に準じて扱われるとされています。
4 生命保険金
被相続人の生命保険金について,保険受取人として特定の人物が指定されている場合は,遺産の範囲に含まれず,相続の対象とはなりません。
他方,受取人が「相続人」とされている場合には,各保険金受取人(相続人)は相続分の割合によりその権利を取得します(最判平成6年7月18日)。
5 死亡退職金
死亡退職金が遺産の範囲に含まれるかどうかは,事案によって異なり,死亡退職金の支給規定に掲げられた支給基準,受給権者の範囲又は順位などの規定ぶりによって遺産に該当するかどうかを判断します。
したがって,当該規定の確認が必須となります。
6 金銭債権
金銭債権その他の可分債権は,遺産分割を経ることなく,法律上当然に分割され,各共同相続人がその相続分に応じて権利を取得すると考えられています(最判昭和30年5月31日等)。
つまり,相続によって各共同相続人に,各相続分に応じた金額ごとに振り分けられる(債権を取得する)ことになります。したがって,遺産の範囲には含まれるものの,遺産分割の対象とはならないということです。
もっとも,預貯金債権については,上記判例と異なり,預貯金と現金(当然,遺産分割の対象となります)の同質性から,遺産分割の対象となるとされました(最判平成28年12月19日,最判平成29年4月6日)。
以上