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当事者作成の裁判前の覚書中の守秘義務の射程

1 事案の概要

裁判前に当事者だけで作成した覚書に、相手方の過去の言動を口外しない旨の条項(以下、「本件条項」という。)が含まれており、これに反した場合のペナルティも記載されていました。

しかし、当方は、争点との関係で、裁判上相手方の過去の言動を主張・立証せざるを得ませんでした。

すると、相手方は、不服申立時にかかる条項違反を主張しました。しかし、裁判所は、「本件覚書は、相手方が、正当な理由なく、抗告人の過去の言動について発言することを禁止する趣旨のもので、相手方において、訴訟や審判手続の追行に必要かつ相当な範囲で、抗告人の過去の言動につき発言することまで禁止するものではないと解するのが相当である。」旨述べた上、本件では上記必要かつ相当な範囲を超えて発言したことを認めるに足りる資料はないとして覚書違反はないと判断しました。

2 参考判例

(1)この点、参考にされるべき判例として、労働事件の解雇事件の裁判上の和解についてはあり、また地裁レベルの判断ではありますが、東京地方裁判所平成29年3月7日判決があります。

東京地方裁判所平成29年3月7日判決によれば、「一般に,調停又は裁判上の和解の内容として,当事者間で一定の事項について第三者に口外しない旨の条項が設けられたときは,その例外を許容する条項が明文で定められていなくても,自己の正当な権利行使のために当該事項を第三者に示す必要が生じたり,公法上の義務に基づいて当該事項を第三者に開示する必要がある場合には,正当行為として,当該事項を開示する必要性が認められる範囲の者に対して当該事項を開示することが許容されるものと解される。」

この判例は、先ほど述べたとおり労働判例であり、裁判や調停上の和解条項の口外についての判例ではあるという相違点はあるものの、当事者の合意であることはかわりなく、ここでの考え方は本件でも参考にされるべきです。

すわなち、この判例では、裁判上の口外禁止条項がある場合についてさえ、明示で許容条項の記載がない場合にも自己の正当な権利行使のために当該事項を第三者に示す必要が生じたときには口外が許容されるという考え方が示されています。そうすると、当事者同士で作成されて、作成過程における適正手続担保がない本件のような場合にはなおさらこの判例の趣旨があてはまると考えるべきであり、本件についても正当な理由があれば口外禁止対象についての口外は当然可能であり、覚書の射程外であるというべきです。

3 反論

相手方の不服申立に対する反論書面には、上記判例を引用して上記のような趣旨の反論を述べました。

裁判所も1の括弧書きで引用した判断をしめしており、同様の判断に到っています。

以上

弁護士 吉武 みゆき

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