遺産分割・相続開始から10年が経過した場合の主張制限(令和3年法改正・民法904条の3)
1 寄与分や特別受益の主張制限
令和3年改正法により民法の一部が改正され、施行日である令和5年4月1日から、遺産分割における特別受益や寄与分による法定相続分や指定相続分の割合を修正する主張が制限されることになりました(以下、「本件主張制限」といいます)。
(1)民法では、一般的に、所有権以外の権利は一定の期間行使されない場合には消滅することとされています(民法166条等)。
令和3年改正法により、特別受益や寄与分の修正を加味した、いわゆる具体的相続分による遺産分割の利益を一定の期間の経過により消失することにしたのです。
(2)令和3年改正法は、所有者不明土地(不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない、又は判明しても連絡がつかない土地)問題対策のための改正です。
本件主張制限も所有者不明土地問題対策の一環です。
ア 現行法では特別受益や寄与分主張の期間制限がなく、遺産分割をしないまま放置しても相続人には直接不利益が生じません。
そこで、これら主張期間を制限することで、相続人が早期に遺産分割の請求をするよう促す結果、所有者不明土地の発生を予防する意味があります。
イ また、特別受益や寄与分による修正がなくなる結果、遺産分割上で考慮すべき要素が少なくなり、基準割合も簡明な数値になることから、協議又は裁判により遺産分割をすることが容易になります。その結果、遺産である土地の共有状態の早期につながり、所有者不明な土地の発生を予防する意味もあります。
2 明文の例外
もっとも、本件主張制限には以下のような明文の例外があります。
①相続開始時から10年経過前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき。
②相続開始時から10年の期間の満了前6ヶ月以内の間に、遺産分割の請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、当該事由消滅時から6ヶ月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき。
(1)①について
ア 相続人のいずれかが適法に遺産分割の請求をしていれば、その請求をしていない相続人を含む相続人全員との関係で、本件主張制限はなくなります。
イ また、相続開始前10年経過前に遺産分割の請求がなされた場合であっても、10年を経過した後にその請求が取り下げられたときは、本件主張制限が発生します。
遺産分割の請求が有効に取り下げられればその請求の効果は生じなかったものとして扱われるからです(家事審判法82条5項、民事訴訟法262条)。
(2)②について
ア 「やむをえない事情」の有無は、個々の相続人ごとに判断されます。
イ 「やむをえない事情」は、単に相続人において相続開始の事実(被相続人の死亡)を知らなかったといった単なる主観的事情では足りません。下記の例のように遺産分割の請求を期待できない客観的な事情が必要です。
例)
・被相続人が長らく生死不明であったが、痛いが発見され、①-年以上前に遭難して死亡したことが判明した事例。
・精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状況にあるが、成年後見人が選任されていない事例。
・遺産分割の禁止の特約や審判がある事例。
・相続開始後10年が経過してから有効に相続の放棄がなされて相続人となった者がある事例。
3 相続人間の合意
また、明文はないものの、本件主張制限を援用できるにもかかわらず、法定相続分(又は指定相続分)によって分割する方が有利である者がその利益を放棄して、具体的に相続分よる遺産分割協議をすることは可能です。
4 経過措置
施行日前に相続が開始した場合にも本件主張制限は適用されます(一部改正法附則3条前段)。
しかし、以下のような経過措置が設けられています。
(1)原則~少なくとも5年の猶予期間
施行日前に相続が開始した遺産の分割では、相続開始から10年を経過する時又は施行の時から5年を経過する時のいずれか遅いときに、本件主張制限を受けます(一部改正法附則3条後段)。
(2)例外
さらに、経過措置にも本件主張制限の例外と同様の規定があります。
すなわち、次の場合には、相続開始から10年(又は施行時から5年)を経過していても、例外的に本件主張制限を受けません(一部改正法附則3項後段)。
①相続開始時から10年経過時又は一部改正法施行時から5年経過時のいずれか遅い時までに、相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき。
②相続開始時から10年の期間(相続開始時から10年の期間満了後に一部改正法施行時から5年の期間が満了する場合には、一部改正法施行時からの5年の期間)の満了前6ヶ月以内の間に、遺産分割の請求をすることができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、当該事由消滅時から6ヶ月経過前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき。
以上
【参考文献】
「Q&A令和3年改正民法・改正不登法・相続土地国庫帰属法」
編著者 村松秀樹 大谷太
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